熊本県のほぼ中央に位置する益城町。2016年に発生した熊本地震において、震度7の揺れを、28時間以内に2度経験した。町内の約98%の家屋は倒壊した。あれから5年。もともと震災前から過疎化の問題を抱えていた町は、震災を契機に町民たちの手によって新たな益城町へと再生されつつある。大きな揺れを経験したからこそ、経験に基づいた命を守る防災に取組んでいる。しかしそれ以前に、町民が向き合っているのは、人々が楽しく暮らすための町の再生だ。益城町で生まれ育ち、現在は会社員をしながら櫛島(くしじま)地区まちづくり協議会の会長をつとめる古荘直樹さんにお話を伺った。
若手4人組による益城町のまちづくり
益城町の中でも、特に大きな被害を受けた櫛島地区は過疎化が進み、現在は170名程が居住するのみだ。この櫛島地区の下には活断層がある。震災以前は多くの古民家があったが、多くは倒壊した。益城町の被害は大きかったが、奇跡的に怪我人はいなかった。しかし当日の揺れはひどく、家屋の中に滞在することは不可能であったという。そこで町民は4月の初旬ではあったが、危険を避けるために畑の真ん中に身を寄せ合い一晩を過ごした。
消防団が活発な地域であったことが幸いし、1度目の地震後すぐに、団で倒壊家屋から高齢者の救助活動を行い、その後自治会と自営の基地、櫛島ベースを作った。高齢者にとっては3キロ先にある小学校への避難は難しかったこと、水の豊かな地域であり、水にだけは困らなかったことがあり、町民は町に留まり、簡単な食事を作りながら震災後の日々を過ごした。
震災後には、東日本大震災を経験した宮城県石巻市から激励の意を込めて、大量の海産物が送られてきた。古荘氏らは、後日この時の感謝を伝えに、石巻の蛤浜を訪れた。その際に、石巻の人々は、自らの経験をもって、震災後の3ヶ月、1年と経つうちに起こりうることについても教えてくれたという。
さらに、震災後の限界集落の活用の仕方や、楽しみ方についても多くの学びを得る機会となった。この学びの中で、若い世代がリードするまちづくりが必要であること、自分たちがやりたいことを実現する大切さを知ることとなった。
こうしたまちづくりを担うのは、古荘氏を中心とした30~40代(発足当時)の若手4人組だ。4人は小学校の集団登校班にいた子供たちであり、大人になってからは全員消防団に入り、現在に至る。町に育てられた大人たちだ。
古荘氏らは町民との会合を始めた。会の後には会合の内容を手作りのニュースペーパーにまとめ、手配りした。その数はすでに50号に及んでいる。この会合の中で、先の避難公園のアイデアも生まれたのだという。
「僕が幼稚園くらいの時なのですが、ステージ作ってみんなで花見をしながら、僕が踊るとみんなが一緒に踊ってくれました。その雰囲気が好きで、今もこうしていろいろと行動しているのだなあと思っています。防災も大事だけれど、自分も含めてみんなが楽しめることもしていきたいなという想いがあります」
震災後に開催した防災訓練もその一つだろう。もともと地域で行っていたが、20年あまり中止されていたお花見を復活させ、避難訓練と炊き出し訓練も同時に行ったのだ。車いすの参加者や、AEDの予習をしてくる参加者など、皆真剣に訓練に参加した。2回目に行った防災訓練には60名あまりが参加したという。こうした機会が生まれたことに地域の高齢者は喜んでいる。
古荘氏はこうも話す。「僕らはやりたいことを楽しみながらやっています。この遊びのゴールにはやはり、子どもを増やすということがあります。益城町はすごく環境が良いところなので、ぜひここで育って、僕らみたいにちょっと変な遊び人が生まれてくれたらいいなと思っています」
公園で敬老会「櫛島ふれあいフェス」開催
こうした経験を経て、現在の益城町には避難公園が作られた。個人が持っていた千坪あまりの土地について、古荘氏らが丁寧に交渉を重ね、避難公園にするべく町に寄付してもらうことになったのだ。広大な公園には有事の時に派遣される20トントレーラーが横付けできるように設計されている。しかし、町民が楽しめるよう、野外フェスのためのトレーラーやステージも搬入できるようにと、公園の間口は広くなっている。この場所で仲間たちとお酒を飲みかわしながら、何度も対話を重ね、できあがった公園のイメージを町が実現させた。公園では敬老会として櫛島ふれあいフェスという名の運動会も開催され、バーベキューが振舞われたという。
また、今後倒壊を免れた古民家を活用し、株式会社NOTEの協力を得て、宿泊施設とレストランをオープンさせる計画もある。類似の取り組みはすでに、近隣の甲佐町で実施されており、上益城郡地域での連携も検討されているという。
宿泊施設における益城町のコンセプトはユニークで「僕たちと親戚になりませんか」というものだ。古民家ならではの味わいを残した宿泊施設が、まるで祖父母の家を訪ねた心地にさせてくれるという。
震災をきっかけに、町が新たな産声を上げている。
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- 「にちにち」には、「日常より非日常、非日常より日常」という想いが込められており、日常も非日常も、暮らしが豊かになるようなアイデアを提案させてください。
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