災害時、自動で鍵が開く。
電気錠のパイオニア「JEI」の生命(いのち)を守る技術


筆者は海外ドラマが好きでよく観るのだが、主人公が帰宅する際、暗証番号を入力したり、カードをピッとかざして玄関の鍵を開けるシーンがある。海外では電気錠やスマートロックが広く普及しているようだが、国内では都心を除いてあまり見かけない。これは海外と国内の玄関の規格の違いも大きいが、災害が多い日本において非常時に閉じ込められる心配があり普及しないという話を聞いたことがある。もし災害時にも対応する電気錠があればと、今回は多様な電気錠システムを取り扱う株式会社JEI代表の山之口良子さん、広報の山之口恵さんにお話を伺った。

地震で解錠する、国内唯一の電気錠

映画館や学校、病院など大型施設に必ずある非常口だが、平時は扉の鍵が閉まっていることはご存じだろう。もし災害が発生するとどうなるか? 自動で鍵が開く仕組みになっている。
この災害時に電気錠の付いたドアを自動で開けるシステムは「パニックオープン」と呼ばれ、火災時には火災報知機と連動し、地震の場合にも電気錠制御盤に内蔵された感震器の働きによって一斉解錠される。
「国内の電気錠制御盤の中でも、地震を感知するセンサーを搭載しているのは弊社のシステムだけです」と代表の山之口良子さん。

かつてアメリカ・カルフォルニア州を襲ったロサンゼルス大地震で、扉が変形し多くの人が脱出できなかった事例があることを知り、災害時に自動で解錠するシステムを開発したという。
阪神淡路大震災の時に、この解錠システムを導入していた施設では、地震発生後すぐに解錠し、扉が変形する前に多くの人が逃げることができたそうだ。
現在では、他社メーカーの電気錠設備にもJEIの解錠システムが導入され、災害時に多くの命を守る重要な役割を果たしている。

60年前、日本初の電気錠をつくる

JEIは前述した通り、地震発生時の解錠システムを開発しただけでなく、国産の電気錠を初めて開発した企業だ。
創業者の宮崎長生氏は、広島の原爆で弟を亡くした経験があり、命を守る事業に強く関心を寄せていたという。学生時代には自動車の急なタイヤロックを防ぐブレーキセンサーの開発に注目していたが、卒業後はエレベーター会社へ。その後、家業の貿易業に携わる中で、海外の電気錠に興味を持つことに。海外の電気錠は高温多湿な日本の気候に合わず、故障することが多かったという。そこで宮崎氏は日本の厳しい気象条件に耐えうる電気錠をつくりたいと起業し、開発に着手。これが国産初の電気錠「フリーロック」である。
「フリーロック」は販売当初、日本銀行をはじめとする金融機関で導入される。その後、精神科病院など多数の施錠管理が必要な施設で、JEIの電気錠が多く設置されるようになった。これは災害時に一斉解錠するシステムを搭載している唯一の電気錠だったからだ。
さらに近年では引き戸用換気電気錠「ケアロック」の開発により、一般の病院や高齢者施設にもJEIの電気錠が多く採用されている。「ケアロック」とは、引き戸や窓に取り付けられる電気錠で、風を通す幅の分だけ開放した状態で鍵をかけることができるシステムのこと。コロナによる換気や介護空間のにおい対策、転落・徘徊防止のため、0~13㎝の範囲内で窓の開閉ができるよう設定できる。この引き戸用電気錠もJEIが開発したもので、全国約12,000カ所に納入。「ケアロック」を含むJEIの電気錠設備はトータル約100,000件以上の施設に採用されている。

鍵を閉めることが一番の防犯対策

電気錠は個人宅でも取り付けできるが、賃貸物件など設置の難しい住宅もある。そこで個人でもできる防犯対策を聞いてみたところ、広報の山之口恵さんから意外な答えが返ってきた。
「あたりまえのことと思われるかもしれませんが、家の鍵をしっかり閉めることがとても大切です。泥棒の侵入率No.1は無施錠ですから」

警視庁の統計によれば、住宅の侵入窃盗の約半数は、玄関や窓の施錠忘れが原因だったという。
「たった数分だと鍵を開けたままゴミ捨てに行ったり、窓のクレセント錠をかけずに外出したり、そういったご家庭が多いんですね。例えば戸建ての場合、物置の上から屋根をつたってベランダへ入るなど、空き巣の侵入経路は思いの外たくさんあります。2階以上にお住まいの方も油断せず、外出時・就寝時は必ず玄関と窓の戸締りをお願いします」

筆者もすぐ戻ってくるから、とつい玄関を開けっ放しで出かけることがある。「家の戸締りはしっかりと」を肝に銘じよう。

技術と心の両輪で成長していく

さて、これまで電気錠のパイオニアとして邁進してきたJEI。創業者の宮崎長生氏からバトンを引き継いだのが娘である山之口良子さんだ。元々化粧品会社に勤めていたというが、家業を手伝うためにご主人とともにJEIに入社。4人のお子さんを育てながら働いてきた。当初は総務や経理など仕事をサポートする業務を行ってきたが、2008年には代表取締役社長に就任。現在も「生命(いのち)の安全を守る」という理念を心に、情熱を絶やさず仕事に取り組まれている。
「子育てをしながらの仕事は本当に大変でした。でも振り返ってみるとその大変さも幸せなことだったんだと思いますね。男性より女性の方が幅広い経験ができますし、生まれ変わってもまた女性になりたいって今ならそう言えますね」と笑顔の山之口良子さん。
今後は、引き戸用電気錠市場で1位をめざすとともに、日本の電気錠業界でNo.1に。いずれは世界一の電気錠メーカーになることが目標だという。一方で真摯で誠実な“JEIパーソン”を育てるという社内の人材育成にも力を注いでいる。
「社会人は技術と心の両輪で成長していくことが大切ですね。どちらかでも欠けると空回りしますから。両輪がトップスピードで回転できるような人材の育成に取り組んでいます。人が育てば、企業としても大きく成長できますからね」

企業は人なり。顧客に愛される“JEIパーソン”の存在が、唯一無二の電気錠づくりにつながっているのだろう。

株式会社JEI
電気錠システムの企画開発から製造・販売、施工、保守メンテナンス・修理までを一貫して行う電気機械器具製造業。1962年、大阪府堺市にて創業。2009年、大阪ものづくり優良企業2008優良企業賞を受賞。同年、経済産業省「地域産業資源活用事業計画」大阪市”建築金物”で初の認定。2011年、ケアロックWL-131がグッドデザイン賞を受賞。2013年、盛和塾の稲盛経営者賞を受賞。2015年、関西経営品質賞(ブロンズ)を受賞 等、数々の受賞歴がある。


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この記事を書いた人

しまかもめ
しまかもめフリーライター
(株)大阪宣伝研究所にコピーライターとして勤務。その後、デザイナー、編集者、フリーペーパー営業、ネットショップ企画運営を経て、独立(コトバアトリエ)。神戸市在住の3児の母。