水害の犠牲を無駄にはしない。
水都・大阪にみる防災の歴史「津波・高潮ステーション」


淀川や道頓堀など多数の河川や運河が張り巡らされた大阪は、水運の発展とともに商業の街として栄えてきた。その歴史から「水の都」と呼ばれているが、一方で台風や津波といった水害の歴史と背中合わせでもあった。今回はそんな大阪ならではの水害対策について学べる「津波・高潮ステーション」をご紹介したい。

大阪メトロの阿波座駅から徒歩2分ほどの場所にある「津波・高潮ステーション」。防潮堤や水門などの管理を行う防災棟と、府民の防災意識の向上を目的につくられた展示棟からなる西大阪治水事務所管轄の施設だ。館内は「起・承・転・結」の4つのフロアに分かれており、希望すれば職員さんによるガイド付きの見学ができるということで筆者もガイドをお願いすることにした。見学時間は約90分。早速行ってみよう。

大阪を襲う水害のガイダンスを見る

まずはじめに、研修室(ガイダンスルーム)でこれからはじまる館内ツアーの導入映像が15分ほど上映された。低地に広がる大阪の地形について、津波や高潮のメカニズム、水害の歴史、災害時の身の守り方などをまとめた映像だった。

次に多目的室で、2018年の台風21号の記録映像を5分ほど見た後、これまで大阪を襲った台風とその対策ついての説明を受ける。1934年9月の室戸台風、1950年9月のジェーン台風、1961年9月の第二室戸台風は大阪三大台風と称され、市街地まで高潮による甚大な被害を受けた。大阪府はその被害から街を守るため、防潮堤に加えて、西大阪を流れる安治川、尻無川、木津川にアーチ型の巨大な防潮水門を建設。台風21号の際には、この三つの水門が迫りくる高潮をせき止め、府の試算では最大17兆円の被害を防いだそうだ。

起のフロア。「海より低い大阪」を感じる

「海より低いまち大阪」コーナーでは、大阪の下町をイメージしたジオラマが再現されている。床を海面に見立て、そこから2階建家屋が見える。見学者の立ち位置は、ほぼ家屋の2階と同じ高さだ。いかに大阪の土地が海面より低いかがわかる。壁には大阪三大台風時の潮位を示すラインも。1階がすっぽり浸水してしまったと思うとゾッとする。ぜひ一度この場に立って体感してほしい。

承のフロア。台風被害とその対策を学ぶ

次は「災害をのりこえ着実な高潮対策」エリアへ。まず最初は「忘れないで 高潮災害の脅威」のコーナーだ。大阪の三大台風を切り取った水門風アーチをくぐる。写真やイラスト、文献を通して、当時の被害状況を知ることができる。
1934年の室戸台風では、約3,000人もの死者がでており、うち約2,000人は高潮での犠牲だったという。特に台風の通過が通学時間帯と重なり、子どもの被害が多かった。市内の学校のおよそ16%が倒壊、約800人の生徒と教職員が亡くなったそうだ。当時、第二次世界大戦前であったので、被害状況の詳細あまり公にはされなかったようである。
1950年のジェーン台風の犠牲者は500名だった。前述の室戸台風より被害が少なかったのは、気象情報の精度があがったことと、休日であったことがあげられている。
1961年、第二室戸台風では、死者は約200名だった。うち高潮による犠牲者は4名だった。これはジェーン台風後に124kmの防潮堤を建設したことと、TVの普及による気象情報により市民の避難が早かったことが理由のようだ。
時代を追うごとに犠牲者の数が減少していくのがわかる。

画像引用元:津波・高波ステーションHP

水門風のアーチを通過すると「高潮防災施設のはたらき」コーナーがある。ここにはリアルな防潮扉が展示されている。
また安治川水門の模型もあった。普段は船の往来ができるようにと、オランダの水門を参考にアーチ型にしたそうだ。約30分かかって閉鎖されるとのこと。点検時の試運転日には見学もできる。ちなみに点検以外で閉鎖されたのはこれまで11回。うち3回は台風21号が起こった2018年だったそうだ。
「わたしたちのまち水防団」のコーナーでは、全国でも珍しい消防団ならぬ水防団ついて知ることができる。水防団は北海道、埼玉、神奈川、岐阜、静岡、愛知、京都、大阪の8県のみに設置されているそうだ。団員数は約14,000人、うち約6,000人は大阪の水防団である。普段は別の職業に従事しながら、災害時や訓練の際には特別職の地方公務員として活動している。

転のフロア。津波の歴史を知る

「承」の次は「高潮とは異なる津波の脅威」フロアへ。「せまりくる津波とその対策」のコーナーでは、大阪を襲った地震と津波の歴史を知ることができる。
「歴史の教訓を未来に活かす」のコーナーでは、自然災害伝承碑(浪速区の「大地震両川口津浪記」と堺市の「擁護璽」)のレプリカがある。自然災害伝承碑は、2019年に地図記号として新しく追加されたことはご存じだろうか。これは2018年の西日本豪雨にて、100年前の水害石碑が広島にあったが、地図上にはなく、地域住民に伝承されていなかったことを反省し制定されたそうだ。新しい地図が手元にあれば、近所の伝承碑を探してみてほしい。実はこんなところに、なんていう石碑が見つかるかもしれない。

「ダイナキューブ(津波災害体感シアター)」では、南海トラフ巨大地震を想定した約15分間のドラマを鑑賞。全面、左右側面、床面に広がるダイナミックな映像を見ることができる。

結のフロア。災害を未来に伝える

最後は「津波災害から生命を守る知恵」のエリアだ。「学びのサロン」のコーナーでは、津波に関する世界のニュース、防災グッズの展示、津波のクイズQ&Aなどから、災害への備えを学ぶことができる。床面には大阪平野の空撮写真があり、南海トラフ地震時の予想される津波の高さと到達時間が確認できる。大阪市街地には、津波の第1波が地震発生から約1時間50分で到達するとされている。慌てず避難しよう。

以上で職員さんによる館内ガイドツアーが終了。クイズがあったり、わからないことがあれば気軽に質問できて、一人で見学するより深い学びがあった。
「津波・高潮ステーション」は、被災する度に一つひとつ着実に対策を積み上げてきた、大阪ならではの水害対策の歴史が学べる施設だ。これからの自分やともに暮らす地域を守るためにも、ぜひ一度訪れてほしい。

画像引用元:津波・高波ステーションHP

津波・高潮ステーション
観覧時間/午前10時〜午後4時
休館日/火曜日、土曜日、年末年始
入館料/無料
〒550-0006 大阪市西区江之子島2-1-64
予約・問合せは、06-6541-7799まで

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この記事を書いた人

しまかもめ
しまかもめフリーライター
(株)大阪宣伝研究所にコピーライターとして勤務。その後、デザイナー、編集者、フリーペーパー営業、ネットショップ企画運営を経て、独立(コトバアトリエ)。神戸市在住の3児の母。