非常時でも、いつものおいしいご飯を
「尾西食品の長期保存食」


これまでさまざまな防災セットを見てきた筆者だが、必ずと言っていいほど入っているのが、尾西食品の「アルファ米ごはんシリーズ」である。アルファ米とは炊き立てご飯の旨味そのままに急速乾燥させたお米のこと。水やお湯で簡単に戻すことができるので、災害備蓄食としてはもちろん、アウトドアや登山の携行食、スポーツ選手の海外遠征のお供に、またJAXAの宇宙日本食としても選ばれている。このアルファ米を世界で初めて開発したのが尾西食品だ。ぜひ話しを聞いてみたくなり、尾西食品の広報室に取材を申し込んだ。

世界で初めてアルファ米をつくる

尾西のアルファ米の歴史は長く、1935年に創業者の尾西敏保(はるやす)氏が水を注ぐだけで食べられる「即席餅の素」や「葛練りの素」を開発したのがはじまりだ。
これが戦時下の軍食として採用され、広く知られるように。さらに改良を重ね、水を注ぐだけで米飯に戻り、長期保存できるアルファ米をつくりだすことに成功。食糧不足だった兵士たちに配給された。
終戦後、食料難の日本において、とりわけ乳幼児や病人の栄養補給のために、このアルファ米が重宝されたという。以後も研究・開発を重ね、現在は非常食のパイオニアとして、多くの官公庁や企業などの防災備蓄を支えている。


人気の秘密は、歴史もさることながら、積み重なる技術によって生み出された、そのおいしさである。フリーズドライとは違い、炊いたばかりのご飯からさっと水分のみ抜くので、素材の構造を損なわず、水やお湯でも戻した後も、おいしさが持続するのだ。


「アルファ米ごはんシリーズ」では、白飯、おかゆ、赤飯、山菜おこわ、チキンライス、ナシゴレンといった17種類の味が楽しめる。1990年代の海外旅行ブーム時に誕生した携帯おにぎりシリーズも4種類あり、手軽でおいしく食べられると好評だ。
「どんな方にもおいしく召し上がっていただきたいと、味や種類を豊富に取り揃えております。五目ごはんやドライカレーなど、アレルギー物質(特定原材料等)28品目不使用の商品や、ハラール(ムスリム向けの食品)認証を取得した商品もございます」と広報の森田さん。

バラエティ豊かな尾西の非常食は、登山家や南極地域観測隊、国際宇宙ステーション(ISS)の食糧としても採用。世界からはもちろん宇宙空間でも愛されている。

ドライブのお供に。車載用防災ボックス

ところで、ドライブ中に高速道路で渋滞に巻き込まれトイレに困ったことや、大雪で立往生したというニュースを見たことはないだろうか。
「お客様やグループ会社の運送スタッフから、渋滞時の食事やトイレに関する声が多くありました。そこで運転中のお困りごとに対応したいと、炎天下の車内でも保管できるコンパクトな防災ボックスを企画しました」と広報の石川さん。
尾西の車載用防災ボックスは、箱の内側を特殊な断熱材で覆ってあるので、夏場の高温な車中においても箱内の温度上昇を抑え、食品の劣化を防ぐという。箱サイズは底面A4ほど、高さ12cmのコンパクトさで保管スペースもそれほど取らない。
セット内容は、尾西のきのこごはん(1袋)、携帯おにぎり(わかめ・昆布各2袋)、尾西のライスクッキー(いちご味1箱)、長期保存水(2本)、携帯トイレ(1個)。食品は全てアレルギー物質28品目不使用の商品が揃っている。賞味期間は3年4か月。
当初はネッツトヨタ神戸株式会社での限定販売だったが、好評を得て、各自動車メーカーの販売店でも取り扱っているとのことだ。

思いがけない車中での長時間滞在に、一箱積んでおくと安心である。

日常の非常時にも。あってよかった備蓄食

さて、防災備蓄食をしっかりストックしている方も、賞味期限が切れてしまい、捨ててしまった経験はないだろうか。そんな方は生活の中で少しずつ消費していく、ローリングストックを取り入れてみよう。
尾西の社員のみなさんは自社の商品を自宅に備蓄して、ちょっと工夫を凝らした非常食を普段から楽しんでいるという。社内でアレンジレシピを募集すれば、ほぼすべての社員から応募があるというから驚きだ。例えば、アルファ米ごはんシリーズのチキンライスに、さっと火を通した卵をかけるだけでもオムライスとして楽しめる。その他、具体的なアレンジレシピはホームページに掲載中。ぜひご覧いただきたい。

「災害という非常時だけでなく“普段の非常”にもご利用いただけたらと思っております。例えば、うっかりご飯を炊き忘れた時、忙しい時や体調不良の時などにもおすすめです。時短にもなりますから、気軽にご活用いただければ」とは広報室の石川さん。
うっかりが日常の筆者には、とても助けになりそうだ。

備えの大切さをこどもたちに伝えたい

これまでさまざまなCSR活動に取り組んできた尾西食品だが、昨年からは子どもたちに向けた防災教室をはじめたという。
「これまで防災教室の問合せをいただいておりました。小学校の学習指導要領に防災教育が導入されたこともあり、未来を担うこどもたちに非常食について伝えられる機会つくりたいという思いから、昨年より防災教室をスタートさせました」
この防災教室では、尾西食品のスタッフが学校を訪れ、備蓄の必要性やアルファ米の作り方、フードダイバーシティについて授業を行い、子どもたちに非常食への理解を深めてもらうという。希望があればアルファ米の調理や試食も行う。もちろんオンラインでの授業にも対応している。

「非常食のメーカーとして、非常時こそおいしいご飯を召しあがってほしいというのが願いなんですね。アレンジレシピやアウトドアでのご利用などもそうですが、平時に非常食を楽しむ機会をつくって、災害時の安心感につなげていただいきたいと考えております」

お湯を入れるだけで簡単にできる尾西のご飯。常備すれば、災害時はもちろん日常生活の中でも心強い味方になりそうである。

尾西食品株式会社
1932年、尾西敏保が米を中心としたデンプン食の研究に取り組む。1935年、尾西食品研究所を創立。1941年、富山工場新設、海軍の指定工場に。1942年、旭製薬大阪工場を買収し、法人化。1944年、海軍の要請で、現アルファ米の製法を確立。1946年、終戦後、非常用備蓄食糧として寄与する。1949年、尾西食品株式会社設立。主な事業は長期保存食の製造・販売。柿の種やハッピーターンでおなじみ亀田製菓のグループ会社でもある。

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この記事を書いた人

しまかもめ
しまかもめフリーライター
(株)大阪宣伝研究所にコピーライターとして勤務。その後、デザイナー、編集者、フリーペーパー営業、ネットショップ企画運営を経て、独立(コトバアトリエ)。神戸市在住の3児の母。