ピック先生のセロリスープ
【料理人・守永江里の名もなき料理】


料理名がつけられておらず、ごく普通に家庭の食卓に並ぶ『名もなき料理』を研究しているのが、山口県出身の料理人・守永江里さん。今回は、「ピック先生のセロリスープ」をご紹介。

非日常にはいつもの食材が手元にない。そんな時に、ありもののなかでどう料理するか。思考を柔らかくする料理記事です。

[名もなき料理とは]

「ピック先生のセロリスープが美味しい」

そんなお話を生徒さんたちから聞いたことがありました。ピック先生は、ウクレレの先生です。セロリスープのことを教えてくださった生徒さんの中に、セロリ嫌いな方がいらしたのでびっくりしました。どうやらセロリ嫌いな方でも美味しく食べられるそうなんです。

ウクレレバンドメンバーの皆さんは、先生が会社のお仲間で共有所有されているヨットの上でこのセロリスープを食べられます。ヨットの上でパーティーをするとき、ウクレレを奏でたりお酒を楽しんだりしながら、先生は鍋にスープを仕込んでおきます。日が沈んできて、涼しくなってきた頃にみんなで食べて温まるそうです。

具材を全部入れて、火にかけたらもうあとはほったらかしで美味しくできるスープだから、先生も宴会を楽しみながら用意ができるという事です。ちょっと煮込み過ぎちゃった、くらいが美味しい、そんな片手間でできるスープです。


[ ヨット内のキッチンでセロリスープを味見されるピック先生 ]

水上で、お酒を飲んで少し冷えてきた体に、野菜の旨味たっぷりのとろみのあるスープを行き渡らす。想像しただけで、体がじんわりと温まる気がします。時と場合と人にぴったり合った、まさに“ 気の利いたお料理 ”だと思います。

料理というものは、どんなに良い食材を使っても、相手のことを思って作っても、気が利いたものでなければその人のためにはなりません。10代の頃、図書館から料理の専門書を借りてきては手の込んだ料理を家族に提供していました。すごいね、こんなの作れるんだね、とは言ってくれるけど、家族の反応は期待以下。両親は、何も言わず、私の成長として見守っていてくれたけれど、すごい、美味しい、けどこういうんじゃないんだよ。今の私だったらそう思うかもしれません。

疲れて帰ってきた両親や、スポーツをしてくたびれてお腹をすかせた兄妹、それぞれに気の利いた料理を出さないといけませんでした。求められるものは季節によっても違うし、曜日によっても違うでしょう。遅く帰ってきた日に何品も用意されていると食べるのもまた疲れたり、週末に質素すぎてもお休みの日のワクワク感が盛り上がらなかったり。体にいいことはもちろん、その人の心にすっと自然に入ることができて、食べるとゆっくり元気が出てくる、そんな気の利いた料理を作りたいし食べて生きていきたいと思います。

セロリスープはとても気の利いたお料理。だからセロリ嫌いな方でも美味しく食べられたのではないでしょうか。手を抜いてる、簡単、見た目がいい、そんなことではなく、その日、その時、その人に気の利いた料理を考えられる料理人でありたいと改めて思いました。

必ず欲しい食材は、セロリ、人参、ベーコン。ご用意があれば、玉ねぎだったりキャベツだったり、お好みの食材を足して楽しんでください。セロリの葉っぱも刻んで入れるとより香りがたちます。

【 材料 】
・セロリ → 1~2mmに細かく切る
・ベーコン → お好みの大きさに
・人参 → 半月切りやいちょう切りに
・にんにく → すりおろす。チューブでも可。
・しょうが → 同上
・ブイヨン or コンソメ
・塩
・胡椒
・片栗粉 → 水でといておく


【 作り方 】
(1) 鍋にブイヨン、具合を全て入れ、煮込む。
(2) 煮えたら、塩、胡椒で味を整える。
(3) 水溶き片栗粉でとろみをつけたら完成。

プラスアルファな手間と感じて、日々の食卓には案外準備しないスープですが、冬はもちろん、夏でもスルスルっと飲めるスープがあると、やっぱり体が元気になりますよね。具材も味付けも自由自在。各家庭でスープの形式は全く違います。アレンジのしやすさもいいですね。このセロリスープも皆さんのお好みでちょっと変化を加えて楽しんでみてください。我が家のセロリスープが誕生したら教えてください。

次回もご紹介するのはスープです。コラムを書く時は、毎回変化を楽しめるようにと順番を変えてきましたが、家庭のスープに興味を持ち始め、今多くの家庭のスープに触れさせていただく事で、何か自分の中で気づきがあるかもしれない、そんな感覚をもっています。どうぞお付き合いいただけると幸いです。

 次回は『まこさんちのワカメスープ』をご紹介します 

この記事を書いた人

もりえり。
もりえり。料理人
鎌倉市在住の料理人です。『もりえり。』と呼ばれています。
数店舗の日本料理店で調理を学びましたが幼少期より母親に教えてもらった愛のある料理が学びの基盤です。

苦手なことは、言葉で想いを伝えること。
得意なことは、料理で想いを伝えること。

趣味は料理以外にフットサル、釣り、スケボー、寝ることです。