料理名がつけられておらず、ごく普通に家庭の食卓に並ぶ『名もなき料理』を研究しているのが、山口県出身の料理人・守永江里さん。
都会の美味しいお店によく行かれる方って、ご家庭ではどのようなものを好んで食べられているんだろう…という疑問から始まった、「大槻家のピーマンごはん」をご紹介。
大槻さん(40代)のおはなし。
大槻さんは、私が以前営んでいたお店のお客様。会社の代表者さんというお仕事柄、おつきあいで外食されることが多く、美味しいお店をご存知でよく教えていただいていました。
都会の美味しいお店によく行かれる方って、ご家庭ではどのようなものを好んで食べられているんだろう……と気になって質問しました。
「子供の時からずっと好きだった料理を今でも食べているよ。“ ピーマンごはん ” ってうちの家族はみんな呼んでる。」と教えてくださいました。
「ピーマンごはん……ピーマンの炊き込みご飯とかですか?ピラフみたいな?」とお聞きすると、「ちょっと違うんだよね~、でも自分では作ったことがないから、聞いてみる。」と言ってご実家に足を運んでくださいました。
“ 大槻家のピーマンごはん ” は、はじめに大槻さんのお祖母様が作られたそうです。お祖母様からお母様へ、お母様から奥様へ伝わり、今は大槻さんのお子様も大好きなお料理。50年以上前から作られ、4世代に伝わり、今でも大槻家で日常的に食べられています。
「ピーマンごはんの作り方を聞きに実家に行った時、母の手書きのレシピ集を見せてもらったんだ。懐かしいお料理がたくさんあったけど、ピーマンごはんのレシピはなかった」と大槻さん。
“ ピーマンごはん ” は、50年以上も “ 作る・食べる・伝える ” というやりとりだけで受け継がれてきた、一品。作ってあげたい人がいるから、作ってもらいたい人がいるから、ずっと大槻家に伝わり続けたのでしょう。本当は、こうやってウェブメディアに掲載されなくても、家族以外の人に知られなくても、大槻家のみなさんの心の中に、凛として穏やかに存在し続けるものだろうと想像します。
目の前にいる大切な人だけが知っていて、喜んでくれる。人のためにごはんを作るということは、それだけでいいんですよね。それ以上を求めることのない作り手の、見栄のない料理は美しいです。
お話を伺って、私が初めてピーマンごはんを作った時、一人で作っているのに、なぜか大槻さんのお祖母様やお母様とお話しながら作っているような気持ちになりました。
教えてもらって以来、私も何度も作りました。
始めて聞いた時は、ここまでシンプルな味付けと調理法で、美味しいのかな?と少しだけ疑問を持ったのですが、作って食べてみると、これ以上も以下もない味付けだと感動しました。
大槻家では、海苔は最後に上に散らします。私は海苔好きでたくさん食べたいので、下に敷いて食べやすくしています。お好きな食べ方でどうぞ。
【 材料 】
(2人前)
・ピーマン ‥ 2個
・豚バラorロースの薄切り ‥ 100g
・生姜 ‥ 10g
・濃口醤油 * ‥ 大さじ1
・塩 ‥ ひとつまみ
・胡椒 ‥ 適量
・炒め油 ‥ 少量
・白ごはん
・刻みのり
※醤油の量は、ご飯の量に合わせて調節してください。
【 作り方 】
⑴生姜をすりおろし、醤油と混ぜておく。
⑵ピーマンは千切り、豚肉は3cm幅に切る。
⑶油を熱したフライパンでピーマンを炒めて、一度皿に取り出す。
⑷豚肉を炒め、塩と胡椒を振る。
⑸ 豚肉に火が通ったらピーマンを再び入れて温める。
⑹ご飯の上に海苔をちらし、⑤を入れ、①をまわしかけて完成。
色は、茶色、緑、以上。
ピーマンごはんはシンプルだけど堂々としていて美しいです。
名もなき料理の美しさとは、評価して欲しいという感情抜きで作られていることではないかと思います。もしかしたら私はまだ自分の料理に対する評価を求めています。意識的には求めていないけれど、無意識的に求めている気も。評価ではなくそのひとのためであるかどうか、その意識だけで料理をすることは料理を仕事にする身としてとても難しいことです。でも、いつかきっとそうなりたいです。これからも名もなき料理が生まれるその心を見つけるべく取材を続けたいと思いました。
大槻家のみなさん、ありがとうございました。
次回は『 山下家のささみの梅じそ和え 』を紹介します
この記事を書いた人
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鎌倉市在住の料理人です。『もりえり。』と呼ばれています。
数店舗の日本料理店で調理を学びましたが幼少期より母親に教えてもらった愛のある料理が学びの基盤です。
苦手なことは、言葉で想いを伝えること。
得意なことは、料理で想いを伝えること。
趣味は料理以外にフットサル、釣り、スケボー、寝ることです。
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