まこさんちのワカメスープ
【料理人・守永江里の名もなき料理】


料理名がつけられておらず、ごく普通に家庭の食卓に並ぶ『名もなき料理』を研究しているのが、山口県出身の料理人・守永江里さん。今回は、親へ感謝をするきっかけをくれる一杯「まこさんちのワカメスープ」をご紹介。

非日常にはいつもの食材が手元にない。そんな時に、ありもののなかでどう料理するか。思考を柔らかくする料理記事です。

[ 名もなき料理とは ]

まこさんのインスタグラムの投稿で気になるお料理を見つけました。ワカメのスープ、と聞くとシャキシャキしたワカメが入っている、塩味や醤油味のスープを思い浮かべますが、まこさんのスープはワカメがとろとろしていて、鯖缶を入れるそうなんです。

「家族のお誕生日には必ずこれを食べるんだけど、みんな好きだから日常でも食べるよ。これは韓国の家庭料理。うちでは在日韓国人だったおばあちゃんの代から作ってる。お店では出ないね。これは家で食べるもの。滋養が出るから、産後にいいってよく言われていたね」と教えてもらいました。

[ まこさんのインスタグラムの写真 ]

韓国ではお誕生日にワカメスープを食べるのが一般的だそうです。わかめが大好きな私は、お誕生日にワカメスープが出てくるととっても嬉しいですが、ハレの日の料理にしては少し地味なイメージ。でもそれには理由がありました。

まこさんから教えていただいたように、韓国の産婦さんは出産後1ヶ月間ワカメスープを食べ続けるそうです。出産で疲れた体に栄養を与えるためと、母乳を出やすくする効果があるからです。

そして、誕生日に食べることで “ お母さんが自分を大切に育ててくれた ” という母の愛を再認識することができます。お母さんも、当時の気持ちを思い出すことができそうです。そのきっかけになるのが、このワカメスープです。

どんなことを思い出すのか、それはお誕生日によって違うのでしょう。

まこさんには大学生の娘さんがいらっしゃいます。お料理を一切しなかった娘さんも、最近このスープを作られるそうです。まこさんが認識されている限り、既に4代続いています。もしかしたらこの味は、次の代へとどんどん続くし、おばあさんより前から続いていたかもしれません。

一般的に牛肉とわかめの組み合わせで作る家庭が多いようですが、まこさんちのわかめスープは、鯖缶とわかめです。だしいらずのスープなのに侮ることはできません!鯖とわかめの奥深さと、とろっとろな食感に舌鼓を打つご馳走です。

私もまこさんちのワカメスープを真似して、産後1ヶ月を過ごしたいと思います。とっても簡単だから、パートナーや、疲れている時の自分でも作ることができそうなんです。もちろん普段の食事やおやつにも。

“ 鯖缶とわかめ ”という組み合わせも、“ とろとろに煮込む ”という調理法も新しい! 家族に長年愛され、受け継がれていく料理名もなき料理にまた出会えました。

包丁もまな板も使いません。鍋だけあれば作れるのが手軽で嬉しいです。味付けの配分はご自由に。甘めが好きな方はお砂糖を入れても美味しく作れます。

韓国では家庭でも、作る人の好みによって甘かったり、しょっぱかったり味付けが違うんだとか。

鯖缶は水煮が基本ですが、味噌煮でも作ることができます。まこさんのおうちでは、冬は石油ストーブの上に置いてワカメがとろとろになるまで待ったそうですよ。

【 材料 】

・鯖缶
・乾燥わかめ(生わかめでもOKです)

・酒
・みりん
・醤油
・ごま油

【 作り方 】
(1) 鯖缶を汁ごと鍋の中に入れて、ほぐす。
(2) わかめも入れる。
(3) 水、酒、みりん、醤油、ごま油を入れて、2時間煮る。
(4) 味を整えて、完成。

地味で簡単なお料理でも家族に愛されている家庭料理には、なんとなく作っているようで、受け継がれるには必ず理由があります。その理由は、とてもまっすぐです。

家族が好きだから。簡単だから。美味しいから。とてもシンプルでその理由全てに愛を感じます。だから私は名もなき料理が好きです。

次回は『西村家の肝を煮たやつ』をご紹介します

この記事を書いた人

もりえり。
もりえり。料理人
鎌倉市在住の料理人です。『もりえり。』と呼ばれています。
数店舗の日本料理店で調理を学びましたが幼少期より母親に教えてもらった愛のある料理が学びの基盤です。

苦手なことは、言葉で想いを伝えること。
得意なことは、料理で想いを伝えること。

趣味は料理以外にフットサル、釣り、スケボー、寝ることです。