山下家のささみの梅じそ和え
【料理人・守永江里の名もなき料理】


料理名がつけられておらず、ごく普通に家庭の食卓に並ぶ『名もなき料理』を研究しているのが、山口県出身の料理人・守永江里さん。

“ 料理に愛情を込める ” コツとは何か、考えるきっかけになった「山下家のささみの梅じそ和え」をご紹介。

[名もなき料理とは]

 

山下さん(都内に務めるOLさん)のおはなし。

私が山下さんのお宅に伺ったのは、ちょうど山下さんが臨月だった頃。大きくなったお腹を抱えながらお話してくれました。「母が作っていたもので、私もよく作ります。鬼!簡単です。笑」と言われ、お母様とお二人で作り方を見せてくださいました。

『山下家のささみの梅じそ和え』の作り方には、家族みんなが食べられる工夫がいくつもありました。お出汁を入れることで、梅の酸味が和らぐこと。ささみを茹でた後、蓋をして寝かせ、柔らかく仕上げること。などなど。経済面や手間も考慮されていて、とにかく美味しいので、これはたくさんの方に紹介したい!と取材中に思いました。

そして、味付けや調理法だけではなく、他にも山下家のお母様から勉強になることがあったのです。

一番感動したのは、お料理自体を楽しまれているのはもちろん、食べてくれる家族に作ることを幸せだと心から感じておられる、ということ。これは直接お母様が言われたわけではないのですが、何年もの間、“料理に愛情を込めてきた人” だけがまとえる空気感が、お母様にはありました。台所にいる姿から、暖かさと安心感を与えられる料理人に私もなりたいと思いました。

手際よく調理しながら「私の料理はとっても簡単なものばかりなのよ。」と笑顔で言っておられた姿がとてもかっこよかったです。

取材が終わってから、久しぶりに都心の散歩でもしてみるか~なんて思ったのですが、どこを歩いていても、少し心に物足りなさを感じたのを覚えています。

ずっとご家族を支え続けてきた山下家のお母様は、料理人としては“ 名もなき ”料理人。ですが、家族だけに作り続けてきた“名もなき料理人”さんが作られる、愛情のこもったお料理が美しくて、自分の未熟さを感じたからだと思います。

私が極めたいのは、特別な調理技術や名声ではなく、自分の中にある思いを料理で伝えることだと改めて感じ、そして考えました。

“料理に愛情を込める”というのは抽象的な行動ですが、一つコツを見つけるならば、“作る理由を少なくする”ではないかと。

山下家のお母様のお料理が美しいのは、“ あなたのために ” と思う気持ちだけで作っているからではないでしょうか。料理というツールで、ご家族にただただ愛情を伝えておられるということ。これは料理の仕事をしていると、とても難しいことです。自分はこうしたいと思ったけど先輩に合わせて作らないといけないから、とか、先輩に評価されたいから、とか、もっと原価を下げないと利益が出ないから、とか、もう少し写真映えする色合いにしてお客様に注文してもらいやすくしたいから……とか。

食べ手を思う“ あなたのために ”という意識以外に、判断の要素や作業の理由がたくさん出てきます。

私は、家族を愛すことで手を動かされている山下家のお母様のような気持ちで仕事をしていきたいです。なるべく“ 作る理由 ”を減らしてみようと思いました。

低脂肪のお肉、梅干し、大葉が大好きな私にとってはたまらない一品。鶏胸肉で代用して作る時もあります。茹で上がったつるつるの鶏肉と、調味料を混ぜ合わせる時にキラキラする瞬間があり、楽しいです。

【 材料 】

・鶏ささみ肉  ‥  5本

・梅干し ‥ 4つ
・大葉 ‥ 6,7枚
・めんつゆ * ‥ 大さじ1と1/2

・片栗粉 ‥ 適量
・料理酒 ‥ 適量

※めんつゆはストレートのものを使用。 

【 作り方 】

⑴鍋にたっぷりの湯を沸かす。

⑵大葉と梅干しを細かく刻んで、ボウルに入れる。めんつゆも入れる。

⑶ささみを4等分のそぎ切りにし、ビニール袋で片栗粉を和える。

⑷①が沸いたら、酒少々を入れ、ささみを一つずつ鍋の中に入れていく。

⑸途中かき混ぜながら、5,6分茹でる。


⑹蓋をして5分蒸らす。


⑺湯を切って、②のボウルに入れ和える。


⑻皿に盛って完成。

肩の力を抜いて料理をし、愛する人を大切にできる日常って、究極の幸せです。上手、下手、ではなくて、あなたのためにこうしたいんだ!という押し付けでもなくて、その人の日常にそっと寄り添うことのできる料理を作りたい。そう思いました。

次回は『 遠藤家のそぼろごはん 』を紹介します

この記事を書いた人

もりえり。
もりえり。料理人
鎌倉市在住の料理人です。『もりえり。』と呼ばれています。
数店舗の日本料理店で調理を学びましたが幼少期より母親に教えてもらった愛のある料理が学びの基盤です。

苦手なことは、言葉で想いを伝えること。
得意なことは、料理で想いを伝えること。

趣味は料理以外にフットサル、釣り、スケボー、寝ることです。