雑誌『TRANSIT』の元副編集長である池尾さん。現在は、京都在住のフリーランスとして活躍中です。これまで旅について考えてきた池尾さん(しかし、鼻炎持ち&虫に弱いので旅スキルは低め)が、本を通じて旅を見直します。
以前こちらのコラムで、キャンパーバンでアメリカ北西部を旅した著者によるバンばかりの写真集を紹介したが、この度同じ著者の新著(日本語版)が発売された。その名も『VAN LIFE』。前作に掲載されたのは彼の2011〜2013年のバントリップ。当時に比べると、コロナ禍の今では人との接触を避ける車旅やリモートワークが浸透し、よってVAN LIFEへの注目も加速している。こんな事態は、きっと彼も予想していかなったと思う。
著者フォスター・ハンティントンについては、前回のコラムに詳しく書いたのでそちらを読んでいただくとして、前作『HOME IS WHERE YOU PARK IT』が、著者が旅先で出会ったバン生活者たちの暮らしを収めた写真集なのに対し、本書はその延長線上にあるともいえる作り。世界中のバン生活者の暮らしを豊富な写真で紹介するとともに、インタビューによりそれぞれのVAN LIFEのポリシーを聞き出し、バン生活の十人十色のあり方を探る。
著者自身のエピソードである「Volkswagen T3 Vans」から始まり、「Volkswagen T2 and T4 Vans」、「Sprinter Vans」、「Japanese Vans」、「School Buses」、そして「Small RVs and Custom Campers」まで、バンのタイプ別に章立てされているところにも、一層のバン愛が感じられる。
各章にはバンタイプ別の愛好家のインタビューと写真アーカイヴを収録。VAN LIFEを始めたきっかけから具体的な購入方法、断熱材を設けたり薪ストーブを取り付けるなどのカスタムの詳細、これまでの最大の故障やこれから同タイプのバンをもちたい人へのアドバイスまでに及び、ヴィジュアルブックと思いきや、実践的なネタが豊富。これからVAN LIFEを始めたい人にはもちろん、新しい働き方や生活を模索中の人、また車やDIY好きにも十分読み応えがある。
車の仕組みにさほど詳しくない私としては、各々がVAN LIFEをどう捉え実践しているのかが面白かった。「移動手段であり隠れ家であり自由であり可能性」と言う人がいれば、「クリエイティビティを解放するための手段」と言う人も。「動く仕事場」としての使い方がある一方で、「日常からの脱出ポッド」としての使い方もある。中には、手を加える楽しみを常に残しておくために「カスタムを完璧にしない」というこだわりを持つ人も。カスタムそのものに醍醐味を見出すこともできる、VAN LIFEの器の広さに気づく。みんながみんな、VAN LIFEの目的が、旅の手段というわけではないのだ。
各自がVAN LIFEの目的を明確にもち、そのヴィジョンに向け、個性豊かなカスタムを施していく。さらにこの本に多い古い車種ともなれば、個性を把握し、運転に気を遣い、度重なる故障や整備に応じる基本スキルは備えておかねばならない(特に旅の途上ではなおさら)。そうして手をかけながら、時にピンチを共に切り抜け一緒に過ごしたなら、バンは紛れもなく人生の相棒になる。VAN LIFEの可能性を知り、私もいつその世界に飛び込もうかと夢見てる。
(書名)
『VAN LIFE -YOUR HOME ON THE ROAD-』
FOSTER HUNTINGTON・著
TWO VIRGINS
この記事を書いた人
- 町工場の多い東京下町で育つ→バンコクで情報誌の企画・編集→編集者→京都在住。人生の中で、多くを旅について考えることに費やしてきました(鼻炎持ち&虫に弱いので旅スキルは低め)。旅の在り方を見直す時期にある今、「にちにち」では本を通じて暮らしの中の旅=非日常を皆さんと模索していきたいです。