ごみで暮らしが豊かになる?
ゼロ・ウェイストの伝道師が指南する実践ガイド本


雑誌『TRANSIT』の元副編集長である池尾さん。現在は、京都在住のフリーランスとして活躍中です。これまで旅について考えてきた池尾さん(しかし、鼻炎持ち&虫に弱いので旅スキルは低め)が、本を通じて旅を見直します。

ステイホーム下で、多くの人が働き方や生き方を見つめ直した2020年。我が家でも、通信環境を見直したり、完全リモートワーク化した夫専用のデスクを設けたり、細かなアップデートが続いている。そうしたなか、いよいよ本気で意識するようになったのが、ごみについて。こんまりや断捨離にはすっかり乗り遅れた私だが、最近書棚からよく手に取る本が『ゼロ・ウェイスト・ホーム』だ。

本書は、長年ごみをいかに出さずして暮らすか?を実践してきた女性、ベア・ジョンソンが、自らの経験に基づいたアイデアを詰め込んだゼロ・ウェイスト生活の指南書。初めはブログで火がつき、英語メディアで注目を浴びるようになり、書籍に。本書、日本語訳の発刊は2016年。そこから4年経った今、日本でも「SDGs(持続可能な開発目標)」の認知は広がり、サブスクリプションサービスは充実し、2020年7月にはレジ袋有料化もあり、ゼロ・ウェイストの概念とともにその存在感を強めている。

サンフランシスコ近郊に家族4人で暮らすベア・ジョンソン。かつては、280㎡の家に3台分の車庫を持ち、週末には大型ショッピングモールで買い物し、240ℓのゴミ袋が毎週いっぱいになる暮らしをおくっていた。それがある時、物をなるべく持たない生活から解放感を得たのをきっかけに、生活の縮小に着手。結果3年間で持ち物の80%を処分した。その上で取り組んだのが、本書にまとめられたなるべくごみを出さないゼロ・ウェイストの暮らし。本書の帯には、著者が片手にガラス瓶を持った写真と「1年間の家族4人のゴミの量はガラス瓶1本分!」という驚異の事実が目を引く。

本書では、ごみを減らす基本的手法「5つのR」と、住空間ごとの細かなアイデアを紹介。

Refuse:レジ袋やチラシなど不要なものを家に持ち込まない
Reduce:必要なものを自作や代用品でまかなう
Reuse:必要なものは未包装のものか繰り返し使う容器持参で量り売りで購入
Recycle:上記3つができない場合はリサイクルする
Rot:堆肥化する(土に還す)

重要なのはこの流れで進めること。確かに、そもそも家のものを増やさなければ、リサイクルや堆肥化の方法を考える必要もない。

とはいえ、本書には日本での実践が不可能な項目もあるし、まだまだ意識の低い私としては、労力がかかりすぎるアイデアも多い。でもご安心を。彼女曰く、ゼロ・ウェイストは個人の問題で「全てを実践する必要はなく、大切なのは個々に合った方法を選びとること」と言う。地球環境への配慮や節約生活を強要するのではなく、あくまで個々がシンプルに豊かに生きる術としてゼロ・ウェイスト生活を提案する。ごみ(もの)を常に意識することで、消費の形やその積み重ねである生き方を考えることにつながる。

ものを増やさなければ当然出費は減り、空間を広く使えるし、自ずと創意工夫に目が向き、片付けや処理の時間が減り、結果好きなことをするお金や時間を手に入れられる。ごみ減らしを「つまらない制約ではなく無限の可能性」と言う著者。日々のごみを意識するのは、消費の形やその積み重ねである生き方を考えることと同義なのだ。

ちなみに著者は、これまでに行き過ぎた失敗と反省を繰り返していると暴露(かつては量り売りを探すのに車を何時間も走らせ、トイレットペーパーの代用としてコケを探していた等々!)。本書の馴染みやすさは、そんな彼女の実体験から成り立っている部分も大きい。

現代において、私たちの暮らしと切り離せないごみ。まずは今日1日、いや過去1時間内に自分が関わったそれらに思いを巡らせてみることから始めてみたい。

(書名)
『ゼロ・ウェイスト・ホーム ごみを出さないシンプルな暮らし』
ベア・ジョンソン・著
服部雄一郎・訳
アノニマ・スタジオ

この記事を書いた人

池尾優
池尾優編集者
町工場の多い東京下町で育つ→バンコクで情報誌の企画・編集→編集者→京都在住。人生の中で、多くを旅について考えることに費やしてきました(鼻炎持ち&虫に弱いので旅スキルは低め)。旅の在り方を見直す時期にある今、「にちにち」では本を通じて暮らしの中の旅=非日常を皆さんと模索していきたいです。