防災時に役立つ地域コミュニティはどう作られるのでしょう? 神奈川県三浦半島南端の港町・三崎にある蔵書室「本と屯」から、そのヒントを探りました。
災害時には、地域住民による助け合いが欠かせません。このことは、自然災害に対する人びとの意識の高まりとともに近年かなり定着しました。消防庁の報告書によると、阪神・淡路大震災(1995年)で瓦礫の下から市民によって救助された人は、警察・消防・自衛隊による人数の3倍以上。その後も、避難所の設置・運営から街の復旧・復興まで、災害時にはあらゆるシーンで地域の絆が試されます。
では、防災時に役立つ地域コミュニティはどう作られるのでしょう?例えば避難所となる学校や公園、集会施設、コミュニティホール等の公共の場で自然にできる繋がりもそうですし、それらを拠点に、防災関連のワークショップやイベントも開催されています。とはいえ、よほど意識の高い人でない限り、防災目的でそういった場に飛び込んでいくのはハードルが高いです。そこで地域コミュニティのユニークな在り方として参考にしたいのが、神奈川県は三浦半島南端の港町・三崎にある蔵書室「本と屯」です。
主宰するのは、様々な媒体や場作りを行う編集者であり、夫婦で出版社を営むミネシンゴさん。本と屯を「世代を越えて人が自然と集まる場所」と話すミネさんに話を聞きました。
「この町に引っ越してきた3年前に、元々は自社媒体の在庫管理や自分の作業場としてこの物件を借りました。なのに、古本屋や喫茶店と間違えて人が絶えず入って来る。それを受け入れていたら、自然と今の形になっていきました」
本の貸し出しはしていませんが、誰でも無料で閲覧できます。ドリンクカウンターはありますが、最低限の飲み物を実費で提供するだけ。図書館ともカフェとも公園とも違うこの空間に、最初に反応してくれたのは地元の子供でした。元々、港町である三崎には公園がなく、遊び場欲しさに小学生が集まるように。2階で小学生が駆け回り、1階では年配の方がコーヒー片手に読書、というのが当たり前の光景になりました(現在2階は美容室になっています)。人が自然と集まる理由は「無目的さ」にあるとミネさんは表現します。
「昔も今も、この場所に目的はありません。強いて言うなら、無目的空間。誰もが何もせず、ただ居て良い場所。そんな場所が今の世の中には少なすぎます」
町の人が本を持ち込むため、当初3000冊だった蔵書は今では6000冊を超えるまでに。常連さんのリクエストでドリンクカウンターも設けました。「三崎の本があったからここに置いておいて」とか「神棚はもっと綺麗にした方がいいよ」などといった町の人とのコミュニケーションで場所が形成されていくのも、無目的空間だからこそ。
実は、ミネさんは美容師出身。美容室は髪を切ってもらうだけでなく、馴染みの美容師さんにお土産だけ渡しに来る人がいたり、予約ついでに待合場所でご近所さんとおしゃべりする人がいたり、町に開かれている場所なのだと言います。
「○○さんが体調を崩しているとか、○○の古い橋が壊れそうとか、今年のお祭りはこうしたいといった、半径1km圏内の情報がここには自然と集まります。なかにはくだらない内容も多いですが、転じて町の未来のヒントになることもある。ここへ来てから、日々の無駄話を大事にするようになりました」
昨年には三崎の観光情報サイト『gooone』をオープンしたミネさん。今後はこういったオンラインツールと「本と屯」と拠点に、地域を結ぶ場作りをしていきたいと話します。
「これまでオンラインは若い世代のツールだと思っていましたが、もし年配の世代にも浸透したなら、双方に大きな価値が生まれることに気づいたんです。年配の方が知る地域情報には極めて属人的なレベルのものが多く、これまではオンライン上には上がってきませんでした。それらを、SNSやリアルな場で、普段から世代を越えて話題にしていけば、町の防災・防犯・安全に直結するように思います」
自治体やNPO法人などによる取り組みに加えて、地域住人が自主的に関わること、またそれを促す仕組みづくりが、今後の防災コミュニティ作りのカギと言えそうです。
この記事を書いた人
- 町工場の多い東京下町で育つ→バンコクで情報誌の企画・編集→編集者→京都在住。人生の中で、多くを旅について考えることに費やしてきました(鼻炎持ち&虫に弱いので旅スキルは低め)。旅の在り方を見直す時期にある今、「にちにち」では本を通じて暮らしの中の旅=非日常を皆さんと模索していきたいです。