半径5メートルから、グローバルまで。つながりあう防災のかたち


日本人である私たちは、幼いころから幾度となく避難訓練に参加してきました。「地震のときはエレベーターを使わない」といった、私たちにとってはごく当たり前のことも、地震に縁遠い国の人にとっては常識ではありません。

2020年、もしも東京オリンピックが開催されていたら、海外から日本を訪れる人の数は4,000万人と見込まれていました。新型コロナウィルスの影響でその状況は根底から覆りましたが、もし今後、大規模かつ国際的なイベントが行われ、地震に不慣れな外国人が街に溢れている状態でそれが起こったら…。私たちは自分の身の安全を確保した後に、どんなことができるでしょうか。

「観光+防災先進国、日本」。この壮大なメッセージを掲げた「BOSAI UNION PROJECT」は、日本を訪れた外国人に、この国で起こりえる災害への備え、そのはじめの一歩を伝えるツール「INFO CHARM」の作成を皮切りに活動を行っています。代表を務める蓜島さんにお話を伺ううち、小さな一歩が、個人/企業双方の防災を大きく、確かなものにしていくストーリーが見えてきました。

「防災グッズや防災食、情報などは、改めて見てみるとこんなにあったのか、というくらい世の中にあります。でも、言葉の壁や災害に不慣れな外国人向けにはまだまだ足りていないのではないか、というところからこのプロジェクトが始まりました。私自身もオリンピックの選手ボランティアに手を挙げていて、もしものときに外国人選手やその周辺の人、観客として訪れた人々に防災の知識がなかったら、そこにとてつもないサポートが必要になり、例えば小さな子どもや年配の方、障がいのある方といった本質的にケアが必要な方に手が届かないのではないかと思いました。

でも一方で、2019年のラグビーワールドカップで日本を訪れた選手団が、台風の被災支援をしてくれたことがありましたよね。そんな風に、知識や言葉の壁を超えることができれば、元気な人は自分の安全を確保したあと、サポートを必要としている人を助ける側に回れると思ったんです」

「BOSAI UNION PROJECT」の活動母体は株式会社ヒロモリ。企業の販売促進や社会貢献型プロモーション、プラットフォームの企画、開発、運営を担う、70年以上の歴史を持つ老舗の代理店です。

「私たちは販促のためのノベルティなど、もともとグッズに落とし込むプロモーションを得意としているんです。普段はクライアント企業の販売促進をお手伝いしていますが、自社プロジェクトとして始まったのが「BOSAI UNION PROJECT」。「熱中症ゼロへ」、「STOP!ヒートショック」に続いて三つ目のCSV(Creating Shared Value:共通価値創造)推進事業でもあります」

グッズ作製の強みから、「BOSAI UNION PROJECT」のアイコンとして作成されたのが、防災情報が一目でわかる旅のお守り「INFO CHARM」。

「旅行中の人は、備蓄はできないので携行できる防災が必要。ですが情報が文字ばかりだったり多すぎると敬遠されてしまうため、防災の基本として本当に必要な情報だけに絞って、8つのTIPSを掲載しました。8人のジャンルの違うクリエイターに協力してもらいインパクトのあるデザインを実現。インフォグラフィックで表現することで言語の壁を越えて伝わること、またお土産として自国に持ち帰ってもらうことを狙っています。

自国でも地震や津波があった際に役立ててもらえたら嬉しいですね。海外からの自由な往来が再開されたタイミングで配布ができるよう準備しています。1日も早く新型コロナウイルス感染症が落ち着き、多くの方に日本の魅力を体験していただくと共に災害に対する日本の知恵を伝えていきたいです」

「BOSAI UNION PROJECT」はその名に「ユニオン」とあるとおり、さまざまな企業が自社の商品やサービスを持ち寄り、それぞれの経済的な価値創出だけでなく、社会と共有の価値を創造していくことを⽬指し、結果的により受け皿の大きな防災に育っていくことをめざしています。

「社会的課題の解決のために、新たな商品やサービスを生み出すという方法もありますが、今ある自社製品やサービスに対する視点を変えることで、結果的に防災につながることもあるのではないかと思うんです。例えばチョコレートを買うときって、私たちは『小腹が空いたから』『ストレスが溜まって甘いものを摂取したいから』といった理由が多いですよね。

でも、例えば災害で帰宅困難になったときにバッグにひとつチョコレートが入っていたら、それが体力や気持ちを先につなげていく可能性があると思う。なので、防災と打ち出していない製品でも視点を変えることで防災につなげて、INFO CHARMと一緒に新しい考え方や価値を海外から訪れる方へも伝えていきたい。そうしていろんな企業の強みが合わさって、結果的により大きな防災の力になったらいいなというのがこのプロジェクトなんです」

自社製品やサービスの販売促進と社会課題の解決が重なるところの打ち出しは、今後、企業の必須課題となっていきそうです。そして日常的なモノを防災につなげる視点の転換は、私たちの生活者としての防災意識にも生かせるところが多々ありそうです。

「チョコレートや絆創膏をバッグに入れておけば、緊急時にも役立つ。そういう意識の人が増えていったら、防災を「自分事化」するハードルを下げられるのではないかと思うんです。社会課題にもいろいろありますが、分かりやすいアクションはみんなが取り入れやすいですよね、プラスチック削減のためにエコバッグを持とう、とか。

防災はわかりにくいのでなかなか意識がいかない。そのわかりにくいところに意識を向けるには、世の中にまだない、壮大な新しいものをつくるよりも、伝え方、見せ方を変えることで『気付いたらやっていた』というくらいハードルが低いところに持っていけたら良いのではないかと思います。これは海外から訪れた方たちだけでなく日本に住む私たちにももっと浸透していってほしい考え方です」

モノだけでなく、普段のコミュニケーションも身近なところ、「半径5メートル」の距離からつながっていくことが防災に役立つのでは、と蓜島さん。

「熊本地震の後に現地でお話を伺う機会があったのですが、そのときに皆さん口をそろえておっしゃっていたのが、助かるために大事なのは、地域の人同士の協力、人と人のコミュニケーション、それに尽きるということだったんです。備蓄とかそういったこと以上に、最後に役立つのはコミュニケーションだと。隣近所に声をかけてまわって、一緒に逃げよう、と声をかけたことで助かった方もいるし、そのあとの復興の段階でも、どうやって取り残さずに声をかけていくかとみんなで協力してやっていったと。

非常事態だからこそ団結が生まれやすいという面もあるかもしれませんが、普段からつながりが持てていたらより心強い。だからといって、つながりのために突然、地域の集まりに行きましょう、というのも現実的に難しい。まずは自分の家族や友達が困っているときにやさしくできるか、声をかけられるか、からでいいと思うんです。気持ちが楽になったり、ほっとするような声かけ。そういう小さなことからスタートしていくことが、最終的には震災時にも助け合えるようなつながりや心構えに育っていくのかなと思います」

INFO CHARMに載せた8つのうち、最後のアクションは「助け合いの心を忘れない」。

「外国の方が困っていたとしたら、たとえ言葉が通じなくてもジェスチャーや紙に描いたり手段はいろいろある。『メイク カンバセーション』することが大事だと思います。私たちが海外で事故や災害に遭ったりしたときも、きっと誰かが気にかけてくれるだけでとても心強いですものね」

(取材・執筆/小野好美)

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