「人口減の地方都市で暮らすクリエイターを増やす」
石巻市の巻組が目指すまちづくり


日本各地で地震や水害が増加してる昨今、防災対策というのは地域社会をつくる上で重要な要因であると思う。国連のSDGs(持続可能な開発目標)も、「気候変動に具体的な対策を」とか「住み続けられるまちづくりを」という目標があって、地球規模での災害への備えや環境への配慮が、国際社会を維持させていくための大きな役割を握るだろう。今回は、宮城県石巻市で持続可能で魅力的な街づくりに取り組む、株式会社巻組の代表・渡邊さんにお話しを聞くことができた。


大学生の頃、旅行が好きで、よく海外へも行っていたという渡邊さん。特にスペインのバルセロナに心惹かれたそうだ。

「バルセロナの街並みがすごくおもしろくて、アーティストの作品が街に溶け込んでいる。名所はすべて乗り降り自由のバスで巡れるし、歩くだけでもワクワクしました。日本でもバルセロナのようなユニークな街並みが見てみたい、と思うようになりました」

そこから街づくりの勉強をしたいと、社会工学を学ぶために東京工業大学大学院へ進学することに。大学院では全国各地いろんな地域でフィールドワークをする中で、その土地土地で何か貢献したいと思っていたという。その反面、自身の技量に自信がなく、銀行や出版社など、一般的な就職活動をすることにしたそうだ。

そんなとき、東日本大震災が起こった。

自分も何かの役に立ちたいと、大学院の研究室の仲間たちと、ボランティアのため石巻市へ行くことに。当時、日本中から石巻へ渡邊さんのようなボランティアが延べ28万人集まったそうだ。

「震災直後だから、建物は倒壊したり浸水したりで、被災者の方はもちろん、そのボランティアの方々の宿泊所もない。それなら、地元の方が使っていない空き家を活用できたらと、仲間と空き家を探しをはじめたのが、巻組のはじまりです」

こうして徐々に件数も増えて、不動産事業として成り立つように。2015年には仲間たちと一緒に「巻組」を起業。現在、空き家活用を主な事業とし、管理物件の運営、移住者のサポート、それに紐づいた楽しいイベントを開催している。

「震災当初は空き家が足りなかったのですが、徐々に復興住宅などができてきて、今は家が余るようになりました。もったいないですよね。それで、資産価値の低い空き家を買い上げ、シェアハウスにして運用するという事業に力を入れてきました」

日本のこれまでの住宅事情もあって、スクラップ&ビルトの慣習があった。しかし環境の観点からいっても、これからは中古物件を再利用したり、リノベーションしたり、半永久的に住み続けられる住宅づくりが求められるだろう。特に若い人やクリエイターは、先進的な取り組みに敏感だ。

「弊社の物件を好んでくださる方って、クリエイティブな人たちが多いんですね。住居を自分でカスタマイズしたい、とか、ものづくりをする場所がほしい、とか。そういう人材が増えると、空き家の活用も進むんだろうな、と思って、クリエイティブな人材の支援も行うようになりました」。


巻組の物件を好んでやってくる若者やクリエイターは、市外からの移住者も多いようだ。被害が甚大だった土地柄、災害の懸念は拭い切れない。石巻に限らず、この日本においては、どこへ行っても災害の危険と隣り合わせだ。巻組の管理物件の防災対策はどうしているのだろうか。

「回数こそ減りましたが、まだ余震もありますし、台風や豪雨による水害も起こっていますので、地域の安全性は重要です。弊社は、空き家が増えているエリアの物件を多く取り扱っていますが、築50~60年経っているような古い物件が集まっているということは、その時代に建てられた古い市街地だったりするわけですね。そういう地域って案外高台にあって、地盤がしっかりしている。防災という意味での立地の良さには気を配っていますね」

物件選びの重要なポイントは、駅近!や、築浅!より、地盤の強さや災害危険区域外であるなど土地の安全性だと思う。巻組は、土地の安全性にも価値をおいて運用を進めている。

今取り扱っている物件は、大家さんからの問い合わせをきっかけに取得することも多いが(もちろん事業戦略的にいい物件を自分たちで探すこともしている)、最初の一件目を契約するまでは、とにかく歩き回って地道に探したという。

「当時は住宅地図を片手に、範囲を決め、一軒一軒歩いて探しました。いい物件が見つかると、通りかかった近所の人に声をかけて大家さんを聞きました。それから大家さんのご自宅まで足を運んで話を聞いていただいて。そういうことを何度も繰り返しました」

そんな中、最初に契約をした大家さんと出会ったという。

「震災後は公費解体といって行政の補助金で更地にできたことあって、最初の大家さんも壊そうかなと考えていたそうです。お話を重ねていくうちに、契約することになり、はじめて物件を管理することになりました。実績がない中で、信じて預けてくださり、本当に感謝しています」

その大家さんとは今でもお付き合いがあるそうだ。


今後は、さらに持続可能な住まいのあり方を追求していきたいという渡邊さん。人口の減っている地方都市で、サイズの大きい空き家をシェアしながら住んでくれるクリエイターを増やしたいという。

「自分たちでものづくりをやりながら、農業や漁業を兼業するなど、もっと多様な働き方、ライフスタイルが増えていけばいいな、と。その受け皿になりたいですね」

震災から10年、石巻は甚大な被害に遭ったけれど、巻組のような新しい力が寄り添って、日常はおもしろく、非日常時でもみんなが安心できる、魅力ある街づくりが進んでいた。

 

渡邊 享子
1987年埼玉県出身。東京工業大学大学院社会工学専攻修了。2015年、合同会社巻組を仲間と起業。同年、共同化再建プロジェクトCOMICHI石巻で「公益社団法人 日本都市計画学会」の計画設計賞を受賞。2019年、日本政策投資銀行主催「女性新ビジネスプランコンペティション」で女性起業大賞を受賞。2021年、株式会社化し、代表取締役に就任。趣味は旅行。仕事にでかける前は、散歩して、ヨガして、コーヒーを淹れて、朝のひとときを楽しむようにしている。
https://makigumi.org/

 

この記事を書いた人

しまかもめ
しまかもめフリーライター
(株)大阪宣伝研究所にコピーライターとして勤務。その後、デザイナー、編集者、フリーペーパー営業、ネットショップ企画運営を経て、独立(コトバアトリエ)。神戸市在住の3児の母。