「福島に集まる人の強さを感じる」植物の力を借りたウェルネスフードプロジェクト


東日本大震災で避難指示対象となった福島県田村市、南相馬市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村、計12地域の事業者をサポートするために生まれた『ふくしまみらいチャレンジプロジェクト』。その中の企画の一つとして、地域の食品、繊維、焼き物など多岐にわたる事業者が、福島ならではの新しい商品を生み出し、マーケティングから販売まで一貫して協働している。

プロジェクト内で2020年に食の事業者が集まってできあがったのが『ふくしまのウェルネスフード』シリーズだ。植物の力を借りて、心身の健康にアプローチするフィトテラピー(植物療法)を生かしたコーディアルシロップやソーセージ、オイルなどをリリースし、好評を博している。

本田屋本店有限会社でプロジェクトの事務局を務め、同シリーズの企画開発から販売、PR等まで包括的に担当している、会津若松出身の栗城奈津子さんにお話を伺った。

「このプロジェクトのメインになる事業者の皆さんは、震災の中でも原発の被害が大きかった地域の方々です。一度ゼロになっている、アラウンドゼロといってもいい場所。今でも土嚢が積み上がっていて、立ち入り禁止区域や進入禁止の道路もあり、混とんとしています。そのなかでゼロから1にしようとしている事業者さんをサポートするのがこのプロジェクトですので、関われることに大きなやりがいを感じています。

私たち本田屋のある会津は新潟寄りなので原発被害が少なく、揺れの被害も県内では少ない方だったんですが、風評被害もあってお米などが売れなくなりました。それでも県内では動ける方。だから私たちが率先してやっていかなくてはいけないと代表の本田自ら想いを持って動いています」

復興と地域の産業を掛け合わせる上で見えてきた課題はどんなものがあるのだろうか。

「商品を作っているだけでは業績は上がっていきませんので、今の市場に合わせたどんな商品を作るか、どう合わせていくかというチャレンジをしていかないといけないんですよね。さらに福島ならではの持ち味を出すという課題もあります。

ですがそれと表裏一体になっているのが、皆で協働して新しいものを生み出す喜びです。企画を持ちかけて、モチベーションがある事業者さんと協働していますので、今までにない商品を生み出せたときなど、事業者さんが喜んでくれたときが私たちの喜びでもあります。フィトテラピーに関してはまだ知らない事業者の方も多かったので、こんな切り口があったんだね、と新鮮に感じてもらえたようでした」

催事での販売の様子。

『ふくしまのウェルネスフード』が生まれた経緯についても教えてもらった。

「新型コロナウィルスの影響で、人々の価値観、ライフスタイルが大きく変化し始め、感染対策、自粛生活などを通して心身ともに疲れ切ってしまった人も少なくないと感じます。日本には台風や地震などの自然災害も相変わらずありますし、いつ何が起こるか分からない状況で私たちは生活しているのだと改めて思うようになりました。そんななか食関連のプロダクトを企画するにあたり、起きうる変化に対して、身も心も折れずに、しなやかな強さを持って粛々と日々を生き抜けるお手伝いができないかと考えました。

自分で心身をいい状態に保つ、メンテナンスすることを考えたときに、最近注目されており、なおかつ実は昔から私たちの身近ところにあった植物療法=フィトテラピー(東洋で言う漢方)に着目しました」

栗城さん自身も以前からオフィスで集中したいときや気分を切り替えたいときにアロマを焚いたり、落ち込んだり体調が思わしくないときは体調に合わせたハーブティーを飲んだりと、植物療法は身近な存在だった。

「監修してくださったのは、メディカルフィトテラピスト(AMPP認定 フランス植物療法普及医学協会植物療法士)の山本優介さん。会津で活動されている山本さんとの出会いもこのプロジェクトを後押ししてくれました」

山本さんは東京から福島の熱塩加納村(現在の喜多方市熱塩加納町)に拠点を移し、フィトテラピーを用いたリトリートプログラムを提供している。

プロダクトのラインナップは、赤ワインの100倍以上のポリフェノールを含むヴァンルージュをはじめとしたハーブを漬け込んだ〈コーディアルシロップ〉3種、ホーリーバジルやマルベリーなどがブレンドされた〈ハーブ入りソーセージ〉、福島では『10年長生きする』ことから『じゅうねん』と呼ばれる〈エゴマ油〉、ブルーベリーの仲間である〈なつはぜのジャム〉、ミネラルを豊富に含む〈桑茶〉、南相馬市小高で栽培された唐辛子を100%使用した〈小高一味〉の8品。

コーディアルシロップ3種のうち、栗城さんの個人的なおすすめを訊くと迷った末「3番でしょうか。安産のためのハーブと呼ばれるラズベリーリーフ、美容効果が謳われるローズといった女性にうれしいハーブが入っています」と答えてくれた。地域のフルーツ店がプロデュースするドライフルーツやフローズンフルーツとコーディアルシロップのセット販売も好調だ。

「食品関係の事業者にお声がけをして、いくつかの事業者が興味を持ってメンバーに加わってくださいました。ハーブを選ぶ際は免疫力を高めることやリラックスできる効能を大事にしています。エゴマ油、なつはぜジャム、桑茶、小高一味は福島県産の素材を使っていますが、ヴァンルージュなど海外産のハーブも多いので、今後はより多くの県内産のものを取り入れて、さらに改良していきたいと思っています」

和製ブルーベリーと言われるなつはぜは、ポリフェノールが豊富に含まれ高い抗酸化作用が期待できる。

プロジェクトに携わることで、栗城さんの目には生まれ育った福島の別の姿が見えてきたという。

「この仕事を通して、福島が地元の人、そして福島に集まってくる人たちの強さを改めて感じています。何もなくなってしまった地域、今も立ち入り禁止の地域、何年も人が住めなくなっていた地域もありますが、それらの地域に限りない可能性を感じて人が集まってきています。

例えば小高地区では、和田さんという方が『地域の100の課題から100のビジネスを創出する』と掲げて雇用を創り出し、人が根付いていけるよう『小高ワーカーズベース』という会社を立ち上げています。取り組みのひとつとしてハンドメイドのガラス事業を立ち上げていて、周辺地域の主婦の方などがそこで働いて、ガラス職人になっている。和田さん自身、小高にしばらく住めない時期があったのですが、制限解除さにより戻られて、そうした取り組みを始められた。新しい街がちょっとずつできているんです。皆さんほんとうに力強いし、産業を創る気概がある。こういう人たちが出てきているのが今の福島なんです」

今後はや福島の豊かな四季折々のものを生かした商品開発をしたいと語ってくれた栗城さん。彼女もまた新しい角度から地域の恵みに光を当て、これからの福島を担っている。

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