21か国にプログラムを広めた“防災企画のプロ”から学ぶ「防災プランナーズスクール」


地域の子どもと大人が楽しく知識や技を学べる、新しい形の防災「イザ! カエルキャラバン!」をはじめ、「地震イツモ」や「レッドベアサバイバルキャンプ」等の人気コンテンツを開発し、「防災は、楽しい。」の理念のもと、さまざまな防災プロジェクトを国内外で企画・運営しているNPO法人〈プラス・アーツ〉。東京メトロや良品計画、三井不動産グループといった企業や学校、自治体との共同プロジェクトも多い。

そんなプラス・アーツが2022年春、高校生や大学生を対象に防災教育プログラムを企画する人を育てる「防災プランナーズスクール」をスタートさせた。スクールの狙い、防災プランを考える上で欠かせないメソッド、国内外で培った現場力についてなどをプラス・アーツ理事長の永田宏和さんに教えていただいた。

社会課題を解決できる「企画力」を

次世代を担う高校生・大学生向けの「防災プランナーズスクール」をスタートさせたプラス・アーツは2006年の設立以来、楽しく学べる防災訓練や防災教育のコンテンツ開発を中心に行ってきた。コンテンツは評判を呼び、国内外から声がかかるように。しかしながら全国で地震に加えて水害も増え、社会課題の中で「防災」のプライオリティが上がるにつれ、自分たちがコンテンツを持ってあらゆる場所に出向くのでは追いつかないと感じる状況になっていった。防災にまつわる人材育成が必要だった。

そこでまずは埼玉や大阪で高齢者の防災教育インストラクターの養成を始め、さらに今回、防災プランナーズスクールを開校。その名の通り、既存のプログラムを伝えるのではなく、企画プランナーを育てることが目的だ。

「企画力っていうのは、社会課題が山積している今の世の中において、非常に重要なスキル。AIに取って代わられない仕事とも言われています。それを現場で学ぶことは、学生にとって、将来、防災の分野に進まなかったとしても、価値のある課外活動になる。大きな視点で捉えると、防災を中心とした社会課題を解決できる人材を育成することが、私たちの目指しているところなんです」

 

一期一会の海外でみがかれた現場力

永田さん自身、建設会社で働いた後、まちづくり、建築、アートをテーマに企画、プロデュースを行う会社を立ち上げ、プラス・アーツと並行して活動している。

机上の論理ではなく、現場での体験が重要と考えるプラス・アーツは、これまで築いてきたさまざまな〈現場〉で企画を立て、実践し、それをブラッシュアップできるようにプログラムを設計している。〈現場〉は海外にも及び、タイやネパールでの活動や交流もスクールの活動に組み入れられている。その狙いはどんなところにあるのだろうか。

「防災、さらに言うと防災教育は、中国が圧倒的に力を持っている現在の国際協力の場で、今も日本が抜きん出ている。日本が提供すべきコンテンツ、果たすべき役割であり続けていると思います」

「イザ!カエルキャラバン!」を21カ国に広め、それ以外にもたくさんの国・地域に渡って防災分野で国際協力に当たってきた永田さんの「現場力」は特に海外で鍛えられた。

例えば、チリで15人くらいの子どもたち向けに防災の授業をしてほしいと頼まれた永田さんは、そのための準備をしていざ現地へ。しかし到着してみると200人ほど(!)の子どもたちが待っていたという。

「『さぁ、どうぞ』みたいな感じで、代案を考える時間もない(笑)。教材がなくてもできるものと咄嗟に考えて、防災体操というのをまずやって、その間に人数分の教材をコピーしてきてもらったりして、なんとか乗り切りました」

「さぁ、どうぞ」の声の先に待っていたのは、200人ほどの子どもたち。とっさの判断で防災体操をスタートする永田さん(写真上)。応じる子どもたち(写真中央)。最後はみんなで記念撮影(写真下)。

 

「海外は言葉の壁や文化の違いがあって『現場』の難易度が一気に上がります。揉まれるし、現場対応力がものすごく求められる。でもこちらがどんなに困っても、目の前には学ぼうと目をキラキラさせた子どもたちがいて、一期一会の貴重な機会なんです。現場で企画をアジャストして、最良を尽くすしかないんですよね」

これまで数々の想定外の事態に晒されてきた永田さんはそんな時、一瞬「困ったな」と思うものの、どうしてもワクワクしてしまうんだとか。

「経験したことがない体験ができそうだ、と思ってしまうんでしょうね(笑)」

 

参加者ゼロの大失敗から生まれたメソッド

永田さんがこんなふうに考えられるようになったのは、アーティストの藤浩志さんとの出会いが大きかった。

「街づくりのイベントで、地域の人と一緒に夏祭りを作ろう、という企画をしたことがあったんですね。そこに招かれていたのが藤さんでした。いざイベントの時間になったら、参加者が一人も来なかったんです(笑)」

イベントに参加者が少なかった、集客に苦労したという話はよくあるが、ゼロとは…!永田さんはゲストの藤さんの手前もあり、とても焦った。スタッフの誰もが悲壮感を漂わせた。しかし藤さんただ一人が、ニコニコしていた。そしてホワイトボードを前に、藤さんはみんなに「なぜ誰も来なかったのかを考えよう!」と楽しそうに呼びかけた。

アーティストの藤浩志さん(写真左)と永田さん(写真右)

「結局、その日は地域の運動会だったことが分かって、要はスケジューリングの初歩的なミスだったんです。藤さんはそれを失敗と考えず、じゃあどうしたらいいかなってもう次を考えてワクワクしている。その時に藤さんが、その状況を風・水・土に例えたんです」

イベントのために外からやってきた永田さんや藤さんを〈風〉のような存在だとすると、地域に暮らす人は〈土〉、イベントは〈種〉。風はそこにずっとはいられないから、土に水をあげて、種を育てる〈水〉の存在が必要だ。〈水〉は〈土〉を理解する支援者であり〈風〉のパートナー。

「今回のイベントに誰も来なかったのは、〈水〉の人がいなくて現地の情報が足りなかったからだね、と結論が出たんですけど、帰りの車でもずっと藤さんと夢中で議論し続けました。そこからこのストーリーが自分の中に深く残ったんです」

以来、藤さんとの対話から生まれた「風」・「水」・「土」の考え方はプラス・アーツの活動の根幹をなす大切なメソッドになった。

 

「現場から生まれた考え方だから分かりやすいし、防災に限らず社会課題解決に取り組むときの心構えを示してくれる。意外と今の世の中って、こういうみんなの礎になるようなベースになる理念が、あるようでないような気がするんです」

永田さんは、防災について講義をしてほしいと大学から招かれる機会も多いが、防災に興味がない学生もいる。でもこの考え方は、学校、会社、家庭、地域、どんなコミュニティのチームづくりにも役立つ考え方だと話すと、みんな興味を持って聞いてくれるそうだ。

 

「聞くこと」から始まる〈種〉さがし

今回の防災プランナーズスクールは、〈風〉の同志を増やす活動でもある。

「まだ始まったばかりですし、5人くらい来ればいいかな、と思っていたら30人ほど参加してくれて、びっくりしています。防災意識が高まっているんだなと時代の空気を感じました。参加している学生は皆とても主体的かつ積極的で、皆で一緒にアイデアを出したりそれを共有する豊かさがあり、こちらが学生から気づきをもらえそうなぐらいの手応えがありました。今後が楽しみでしかないですね」

防災プランナーズスクールを担当する、プラス・アーツスタッフの光田和悦さん(写真中央)と瀧原茉友さん(写真左)。「参加者のオーナーシップの高さに驚いた」という光田さんと「大学時代ずっと被災地支援のボランティアをしていて、その時に防災の知識を子どもたちに教えたりすることに不安があった」という瀧原さんはスクールの意義を身をもって感じている。

スクールでは、地域コミュニティの醸成を課題の一つに挙げている。都市部に暮らす人、一人暮らしの人など、地域コミュニティとのつながりが薄い人がつながりを作るためにも、「風」・「水」・「土」の考え方が役立つという。

「外からその地域にやってきた人は〈風〉。何か強い〈種〉を持っていないと、地域とのつながりを作るのは難しいんじゃないかと思います。種というのはあらゆる活動を指しますが、地域に合わせてローカライズ、カスタマイズすることが必須。そのためには、当たり前ですがリサーチ、取材することがとにかく大事。防災イベントをやってほしいと言われてその地域に行って、ミーティングで話を聞いているうちに本当に求めているのは防災じゃなく違うものだったという場合もありますから」

万能な〈種〉はない。だから永田さんはよく知らないところから「どういうプログラムをやったらいいと思いますか?」とか「アイデアが欲しい」と聞かれると「分からない」と答える。とても誠実な姿勢だ。その場に行って、話を聞いて、関係性を築いてからでないと必要な種が何かは分からないのだ。

 

キャンプ、工作、プレゼント…プラス・アーツが考える備えの第一歩

日常の中で、災害に備えるための第一歩も教えてもらった。永田さんのひとつ目の答えは「キャンプ」。電気やガスが使えない中で楽しみながら経験を積むことは、そのまま災害時の予行練習になるし、道具もそのまま災害時に使えるものが多い。

ふたつ目のこたえは、特に子どもと一緒なら「工作」。永田さんやプラス・アーツが監修を行っているNHKの『つくって まもろう』や学研プラスの書籍『つくって役立つ! 防災工作 水・電気・ガスが使えないくらしを考える』、プラス・アーツのTikTokが大いに参考になる。

 

最近、引越しをしたスタッフの瀧原さんはご近所への挨拶の品に無印良品のゴミ袋をチョイス。防災グッズとしてもゴミ袋としても汎用性が広いことから選んだという。プレゼントの機会に防災グッズを選ぶという素敵なアイデアだ。スタッフ光田さんのおすすめの〈防災はじめの一歩〉は「紙とペン」。「防災って、大切だと分かっていてもすぐ行動に移せなかったり、時間が経つと忘れてしまうものだと思うんです。だからこそ必要だと感じた防災グッズや、普段の生活で実践できそう! と少しでも思ったことを言語化することが最初の一歩になると思います」

 

環境や時代が変わっても大きな力になる企画力と現場力の重要性を、国内外の魅力たっぷりのエピソードを添えながら教えてくださった永田さん。今いる場所で自分は風・水・土のどれだろうかと考え、その場で求められる種がどんなものかを探り、それを作っていく視点は、防災だけでなく仕事や日々の暮らしにも、大いに役立てられるだろう。