竹沢家の豆腐の煮たやつ
【料理人・守永江里の名もなき料理】


料理名がつけられておらず、ごく普通に家庭の食卓に並ぶ『名もなき料理』を研究しているのが、山口県出身の料理人・守永江里さん。今回は「竹沢家の豆腐の煮たやつ」をご紹介。

非日常にはいつもの食材が手元にない。そんな時に、ありもののなかでどう料理するか。思考を柔らかくする料理記事です。

[名もなき料理とは]

今日の晩御飯何にする?
そんな他愛もない会話を友人と交わすのがとても好きです。
その日の気分や体調、家族構成、ちょうど家にある食材などでそれぞれに食べたいものの思いをもっています。
違った環境で生活している友人の食べたいものを聞くことは、私の日常に新しい感覚や刺激があり、面白いのです。
「今日の晩御飯何にしようかな。なんかあっさりしたものが食べたいなぁ。」
喫茶店で生クリームが多めのパフェを食べながら話していたせいか、その日の私の気分は、あっさりしたものでした。

その時に教えてもらったのが『竹沢家の豆腐の煮たやつ』。

作り方を聞いてみると、濃い和風のお出汁で豆腐を煮て、味噌汁の要領で煮汁にコチュジャンを溶く、仕上げにきゅうりを乗せて煮込み、ねぎを散らすもの。という斬新なお料理でした。

「子供の頃は辛くてあまり食べなかったけど、年に一回とか二回とか大阪の実家に帰ると、なぜかこれが食べたくなって、そのうち実家に帰ると必ずこれを作ってもらって食べるようになった。だから、いまでは実家に帰ると何も言わずにこの料理が出てくるよ。」

実家を離れた竹沢さんが、” なぜかこれを食べたくなった ” のはなぜでしょう。
日常的に食べているときは「美味しいね」ってわざわざ口に出して言うことはないから
あまり意識して食べることはないかもしれないけれど、そういうものほど実は体も心も十分に満たしてくれるものなんだと思います。

名もなき料理は記憶の中では控えめにいて、思い出そうとしないと思い出せないものが多いですが
思い出すとあったかい気持ちになれるものです。そして理由もなく、食べたくなるものです。

教えてもらった名もなき料理を作る時は、皆さんのささやかな思いを想像しながら作ります。
ご近所さんと井戸端会議をして、そこで聞いたレシピを真似しているような気分になり、一人で作っているような気がしません。
こうやって、心の中に誰かがいるような気持ちで料理をすることは、料理という日常の単純な作業に変化をもたらしてくれます。
料理を作りながらちょっとした小説を読んでいるような。
そんな気持ちで毎日の料理ができたら、楽しいなと思います。

 

旨味の濃い出汁で煮込み、味付けはあっさりと仕上げます。
私は煮干しと干し椎茸のあわせ出汁で作りました。あさりの出汁でも美味しいそうですよ。

生姜の代わりにニンニクを使ったり
鷹の爪を入れてニコンだりしてもいいですね。
香りづけや辛さはお好みで調節してみてください。

そして、竹沢家ではこれが朝ごはんの定番です。
作って食べてみると、なるほどこれは朝に食べたくなるかも!と感じます。

材料

・豚肉(細切れ肉や、切り落とし、豚バラ肉など薄いもの) 150g
・絹ごし豆腐 1丁

・きゅうり 1/3本
・長ねぎ 1/3本
・生姜 5g

・濃いめのだし 400ml
・酒  大さじ1

・濃口醤油 大さじ1
・コチュジャン 大さじ1強
・ごま油 適量


– 煮干しと干し椎茸のだし –
・水 500ml
・煮干し 10g
・干し椎茸 2g

作り方 】 

⑴ 煮干しとしいたけの出汁を作る。
煮干しは頭と腹わたをとり、半分にちぎる。しいたけは軽く洗っておく。
鍋に水を入れ、煮干しを入れて加熱する。沸騰したらアクを取り、弱火にして10分煮る。
煮干しの旨味が出たら、煮干しをすくい取る。次にしいたけを入れて、5分弱火で煮る。
400mlくらいの出汁ができればOK。少なめなら水を足して400mlにする。

 

⑵ 生姜は千切り、きゅうりは小口切り、長ねぎは斜め薄切りにする。豆腐は8等分、豚肉は食べやすい大きさに切っておく。
⑶ フライパンにごま油を入れ、生姜を炒める。香りが立ったら豚肉を入れる。
⑷ 肉の色が変わったら、酒、だし、醤油の順に入れて、煮立たせる。
⑸ コチュジャンをとき入れて、豆腐を入れて煮込む。
⑹ 豆腐が温まってきたら、きゅうりを入れて蓋をして煮る。
⑺ きゅうりが透き通ったら、長ネギを散らし、ごま油をまわしかけて完成。

 

主婦の方や一人暮らしの方、または料理人など、
自炊が基本の方々が「自分以外が作った料理が食べたい。」と
ふと思われる瞬間があると思います。
でも今日も自分で作んなきゃいけない、そんな日にこのコラムを見ていただいて
名もなき料理を作ってみて欲しいと思います。
本やウェブに掲載されているレシピを見て作るだけの時とは違って
なんとなく新しい気持ちで料理ができるはずです。

次回は『森家の朝の素揚げ』をご紹介します

この記事を書いた人

もりえり。
もりえり。料理人
鎌倉市在住の料理人です。『もりえり。』と呼ばれています。
数店舗の日本料理店で調理を学びましたが幼少期より母親に教えてもらった愛のある料理が学びの基盤です。

苦手なことは、言葉で想いを伝えること。
得意なことは、料理で想いを伝えること。

趣味は料理以外にフットサル、釣り、スケボー、寝ることです。