food

えりかのおやつのラスク
【料理人・守永江里の名もなき料理】

更新日 : 2021-04-15

公開日 : 2021-04-27

料理名がつけられておらず、ごく普通に家庭の食卓に並ぶ『名もなき料理』を研究しているのが、山口県出身の料理人・守永江里さん。今回は、「えりかのおやつのラスク」をご紹介。

非日常にはいつもの食材が手元にない。そんな時に、ありもののなかでどう料理するか。思考を柔らかくする料理記事です。

[名もなき料理とは]

カナダ在住のえりかという友達がいます。日本を離れているとなんとなく恋しくなる料理について教えてもらいました。

私が東南アジアで3週間旅をした時は、鰹出汁の効いたものが食べたくなりました。うどんとかそばとか、親子丼なども食べたくて帰ってすぐそれらを食べました。でもえりかが恋しくなるのは、“ ラスク ” という意外なものでした。

「カナダにももちろんラスクはあるよ。けど、私が食べたいのは揚げたてのお母さんのラスクなんよね。自分で作るのもなんか違うくて、自分では一度も作ったことないよ。ラスクを買ったこともないなぁ。初めて食べたのは保育園に通っていたころ。最後に食べたのは4、5年前かなぁ。お母さんが仕事の休みの日に作ってくれて、それを見ながら横でお話ししてたり揚げるのを手伝ったりしてた」

名もなき料理を取材していると、お母さんが作ってくれる料理に関しては自身も料理上手なのに、自分では作ろうと思ったことがない。と皆さん言われます。

“ あの人が作ったあれが食べたい。”

その人の心のこもったお料理、その人にしか作れない料理というものがあるからでしょう。どんなに簡単な料理でも、単純な作業でも、その人が作ることによって他に変えることができない特別な料理が生まれます。お店で食べる料理ではなく、自分で作る料理でもなく、特定の人が料理をすることで、計り知れない幸せを生み出すことがあります。

今まで、どんなに料理に触れることがなかった人でも、料理をするということは、人生を豊かにしていく上で身につけておくと良いスキルだと思います。初めはうまくできなくっても、基本を身につけるだけで、相手を思う気持ちさえあれば大切な人に小さな幸せを与えることができるのです。料理はコミュニケーションを図るツールになります。私はどんな仕事をするときも、自分の料理を作品ととらえるような作業はしたくないと思っています。誰もに評価されるようなどんなに美しく立派なものを生み出したり、技術を競ったり、評価を得る為にする仕事には興味がありません。常に食べ手とのコミュニケーションツールにしたいと思っていますが、さりげない表現が美しいと思うのです。

そして、作ってあげる・作ってもらうだけではなく“ えりかのラスク ” のように一緒に作るというのもとても良いコミュニケーションになります。

私が思春期のころ、伝えたいことや聞きたいことがうまく母親に話せない時も、一緒に料理をしている時間なら不思議と話せていました。二人とも、同じ目標の料理を作ることに手を動かし、立って横並びになっていたからだと思います。座って面と向かって言えないことも、料理をしている時間だと言いやすいし、聞きやすかったです。それと、人と料理をするときに穏やかな気持ちで作る思いやりはとっても大事です。

料理をするハードルを高くとらえず、いろんな方に料理を楽しんでほしいと思います。まだまだコロナ渦で、お家にお客さんを招くことが難しいけれど、みんなでキッチンに立って遊べる日が待ち遠しいです。

えりかがおやつで食べていたラスクは、フランスパンだったり、食パンの耳だったりしたそうです。

これは油で揚げる作り方。バターを塗ってトースターで仕上げるラスクもいいですが、ジュワ～っという音を立てながら揚げている時間は高揚感が掻き立てられて良いですよ。

【材料】
・食パンの耳
・揚げ油
・砂糖（写真はきび砂糖を使用しています）

【作り方】
(1) パンの耳を食べやすい大きさに切る。ボウルかビニール袋に砂糖を入れておく。
(2) 180度くらいの油で、パンを揚げる。
(3) きつね色になったら余分な油を落とし、パンに砂糖をまぶして完成。

私の “ あの人のあれが食べたい ” は、バイト中、夜遅くまで一生懸命働いた時に店長が作ってくれた塩むすび。おばあちゃんが作ってくれるあんまり甘くないおしるこ。子供の時から食べていたお母さんが作るバタークッキー。いっぱいいっぱいあります。これらは、思い出すだけであったかくて幸せな気持ちにしてくれます。

次回は『なぎさちゃんのなすごはん』をご紹介します

日非日非日日とは
 もしもの時の準備の準備とは

この記事を書いた人

もりえり。料理人

鎌倉市在住の料理人です。『もりえり。』と呼ばれています。
数店舗の日本料理店で調理を学びましたが幼少期より母親に教えてもらった愛のある料理が学びの基盤です。

苦手なことは、言葉で想いを伝えること。
得意なことは、料理で想いを伝えること。

趣味は料理以外にフットサル、釣り、スケボー、寝ることです。