中島家のごちゃだき
【料理人・守永江里の名もなき料理】


料理名がつけられておらず、ごく普通に家庭の食卓に並ぶ『名もなき料理』を研究しているのが、山口県出身の料理人・守永江里さん。今回は、すき焼きと肉じゃがを掛け合わせた「中島家のごちゃだき」をご紹介。

非日常にはいつもの食材が手元にない。そんな時に、ありもののなかでどう料理するか。思考を柔らかくする料理記事です。

[名もなき料理とは]

「秋から冬にかけて、子供の時からよく食べとった。すき焼きと肉じゃがの合の子みたいな料理やで」

初めて私が “ 中島家のごちゃだき ” のことについて聞いた時、味の想像が全くつかなくて、わくわくしました。すき焼きと肉じゃが!?!?

すき焼きはわかる…肉じゃがもわかる…でも、それらが組み合わさるってどんな味で、どんな見た目をしているんだろう? その料理がどうやって生まれたんだろう? と気になってごちゃだきの歴史について伺いました。

「これはお母さんの料理やと思ってたけど、お母さんに聞いてみたら、ひいおばあちゃんの料理らしい。お母さんが子供の頃から食べとったんやって。おばあちゃんが畑仕事をして、ひいおばあちゃんが料理をしてたから、おばあちゃんは作っとらんかった。牛肉だけ買ってきて、あとは畑で採れた野菜と、売りにきた豆腐。家にある一番でっかい鍋で炊くんや。手間もかけずに栄養がしっかりとれて、忙しい日も重宝したみたい」

「ごちゃだきの日は、ごちゃだきがどーんっと各々の器に盛られて、白ごはんと共に並ぶ。これがごちそうやったなぁ。お母さんにとっても、子供の時からごちそうらしい」

取材日、中島さんはその場でごちゃだきを作ってくれました。1人暮らしの時は、ごちゃだきを一度にどんと作ると、2~3日残るので、うどんにしたり、丼にしたりして工夫して食べきっていたそうです。ご実家でお母さんが作る時は、家にある一番大きい鍋で作っていたけれど、家族が多いので1日目で食べきっていたという子供の頃の思い出などを食材の下ごしらえをしながらお話ししてくれました。

料理をするとき、ネットで調べればすぐにレシピが出てきて、なんでもそれなりに美味しく作れるけれど、自分の記憶を掘り返し、その時に感じたことをゆっくり思い出す時間もいいですね。そして、改めて作ってみる。

そうして作った料理は、その情景を思い出すことで自分の感情が加わり、美味しさに繋がります。文字で記されたレシピを頼りに作業する料理とは違って、作りながら色んな気持ちになる。食べて、感じて、思い出して、感じながら、作ってみる。そうやって五感を使って作った料理には、奥行きが生まれます。

名もなき料理の取材をしている時、いつも心が満たされていくのがわかります。日常を愛することができて、幸せな気持ちになります。中島家のごちゃだきに出会えて嬉しいです。

畑でその時採れた野菜を入れていた中島家のごちゃだきですから、具材の分量はお好きなように。私は豆もやしと糸こんにゃくが好きで、たくさん入れます。たくさんの野菜をじっくり煮ることで、いろんな旨味が出て滋味深い味になります。たくさん作って、翌日はうどんにしたり、卵でとじて丼にしたり。

【 材料 】
・牛肉(薄切り肉orこま切れ肉)
・玉ねぎ
・じゃがいも
・にんじん
・白菜
・長ネギ
・焼き豆腐
・糸こんにゃく

・ *ごぼう
・ *豆もやし

-調味料-
・砂糖
・醤油
・酒
※ごぼうと、豆もやしはもしあれば。入れると美味しいです。

【作り方】
(1) 具材を切る。切り方は自由です。
汁物のような扱いなので、肉じゃがの時よりも小さめという感じです。多少煮崩れでも大丈夫。美味しく出来上がります。
(2)鍋に少量の油を熱し、牛肉を炒める。
半分くらい色が変わってきたら、軽く砂糖と醤油を入れ、肉に下味をつける。

(3)牛肉に火が通ったら、玉ねぎ、じゃがいも、にんじんを入れ、肉と絡めながら軽く炒める。

(4)残りの具材を入れ、蓋をして水分が出るまでゆっくり煮る。


(5)水分が少なければ、少し酒を足す。

(6)砂糖と醤油で味を整え、全ての具材に火が通って入れば完成。

名もなき料理に出会うと、私はなぜ幸せな気持ちになるのか。はっきりしたことはまだわかりません。

料理人として、今までは満たされない気持ちをエネルギーに進み続けてきました。例えば、地元萩市の産物を使ったお店を営んでおりましたが、それは、萩市が好きだけれど、住んでいた土地で萩市を知らない人が多く、さみしく感じ、どうしても知ってほしい。という思いからでした。

名もなき料理の取材を続けて、何か今まで持っていなかった部分が満たされてきているような感覚があります。次は、そこが満たされた気持ちで、また違う方向から表現出来るようになるのではないかと未来の自分に期待しています。

次回は『對馬家のお弁当のアメリカンドッグ』をご紹介します

 

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この記事を書いた人

もりえり。
もりえり。料理人
鎌倉市在住の料理人です。『もりえり。』と呼ばれています。
数店舗の日本料理店で調理を学びましたが幼少期より母親に教えてもらった愛のある料理が学びの基盤です。

苦手なことは、言葉で想いを伝えること。
得意なことは、料理で想いを伝えること。

趣味は料理以外にフットサル、釣り、スケボー、寝ることです。