料理名がつけられておらず、ごく普通に家庭の食卓に並ぶ『名もなき料理』を研究しているのが、山口県出身の料理人・守永江里さん。ご両親が居酒屋を営んでいた石原さん。石原さんたち兄妹の好物、お店のメニューにはない「石原家の野菜炒め」をご紹介。
非日常にはいつもの食材が手元にない。そんな時に、ありもののなかでどう料理するか。思考を柔らかくする料理記事です。
石原さんのおはなし。
「お母さんの野菜炒めって、こんなに!? ってくらい具材が大きい。でもそれが美味しかった。夕食はぼーっとしていると、お兄ちゃんたちにお肉を全部食べられちゃうから、みんなで超早食いをしてた。」
石原さんは地元を離れ、一人暮らしをしています。一人暮らしのお宅にお邪魔して、お母さんに作ってもらった思い出の味『石原家の野菜炒め』についてお話を伺いました。ご実家では、ご両親が居酒屋を営んでいて、1階がお店、2階が厨房兼住居、3階が住居だったそうです。
お母さんは、忙しい仕事の合間に石原さんたち兄妹の夕食を作っていました。お店のメニューがそのまま食卓に出ることが多いですが、石原さんが一番好きだったのは、お店のメニューにはない『野菜炒め』。
「家が居酒屋であることが嫌だった。お母さんはいつも忙しそうにしてたし。作ってくれるお弁当は、お店の残り物。ビビンバ!とかチャーシュー!とかで、女子高生っぽくなかったし。友達のお弁当のような、可愛い冷凍食品が入っているお弁当が羨ましかった。
でも、大人になって自分のお弁当に冷凍食品を入れてみると、好みの味ではなくて、お母さんのお弁当はなんてありがたかったんだろうと気づいた。野菜炒めも、いつまでたってもお母さんのように美味しく作れない。おばあちゃんのキムチも美味しかったなぁ。生きてるうちに習っておくべきだった。」
どんなに忙しくても、手間をかけずに…あるもので…作れるものを作る。そのお母さんの姿勢が子供達にも伝わっていて、石原さんが一番好きな料理が家族のためだけに作る、野菜炒めだったんだと思います。
石原家の野菜炒めは、卵を入れるのがポイント。野菜から出た水分や旨みを吸ってくれるので、薄味でも美味しく仕上がります。ぜひ作ってみてください。
一般的な野菜炒めに入っている、人参・ピーマンなどは入れない石原家の野菜炒め。人参は皮を剥かないといけないから。ピーマンは切って、種を取るという工程があるから。手間を省き、パパッと作れる工夫が詰まっていますが、石原家のこの具の組み合わせ、とても満足感があります。
【 材料 】2~3人前
・キャベツ ‥ 1/6個 → 大きめのざく切りorちぎる
・ニラ ‥ 1/2束 → 3cm幅に切る
・しいたけ ‥ 3個 → 1cm厚さに切る
・豚バラ肉 ‥ 150g → 3cm幅に切る
・卵 ‥ 2個 → 溶いておく
・油 ‥ 適量
・塩 ‥ 小さじ1/2
・胡椒 ‥ 適量
・濃口醤油 ‥ 大さじ1
【 作り方 】
(1)フライパンに油を敷いて、豚肉を焼く。完全に火が通ったら皿に取り出す。
(2)同じフライパンに卵を入れ、かき混ぜる。
(3)卵の上に、キャベツ、しいたけを入れ炒める。
(4)ある程度火が通ったら、ニラも入れて、塩と胡椒を振る。
(5)①の豚肉を戻し入れ、醤油を鍋肌に入れる。味が回るようにさっと炒める。
(6)器に盛って完成。
私たちのために作ってくれた、という特別な喜びと飾らない美しさと安心感。家族に満足してもらう料理には、お店で出す料理のような彩りや飾り付けは必要ないのですね。野菜炒めを作るとき、お母さんは “ 居酒屋の料理人 ” ではなく、“ 名もなき料理人 ” になり、“ 名もなき料理 ” を作られていました。
次回は、『椿山家の優勝丼』をご紹介します
この記事を書いた人
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鎌倉市在住の料理人です。『もりえり。』と呼ばれています。
数店舗の日本料理店で調理を学びましたが幼少期より母親に教えてもらった愛のある料理が学びの基盤です。
苦手なことは、言葉で想いを伝えること。
得意なことは、料理で想いを伝えること。
趣味は料理以外にフットサル、釣り、スケボー、寝ることです。
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