それぞれのデコポンのサラダ
【料理人・守永江里の名もなき料理】


料理名がつけられておらず、ごく普通に家庭の食卓に並ぶ『名もなき料理』を研究しているのが、山口県出身の料理人・守永江里さん。今回は「それぞれのデコポンのサラダ」をご紹介。

非日常にはいつもの食材が手元にない。そんな時に、ありもののなかでどう料理するか。思考を柔らかくする料理記事です。

[名もなき料理とは]

毎年、お隣さんからデコポンのお裾分けをいただきます。食べると体中に果汁が行き渡り、冬の間に乾燥した体を一気に潤してくれるようなみずみずしさです。

「なんだか酸っぱいの」と言いながら、今年は少し遠慮がちに届けてくださいました。私は酸味のある果物が大好きなのでむしろ嬉しい。子供の頃から、実家の庭で実るすっぱめのみかんや甘夏を食べて育ったからか。果物は甘さだけでなく酸味も感じたい、と思っています。

そのデコポンをいただいてみると、確かに去年よりはすっぱめ。けれど私にとっては十分に甘くて、いつも通りとても美味しくて、味わっていただいたつもりがあっという間に食べ切ってしまいました。その後、お隣さんと顔を合わせた時に、お礼を伝えると「そう?よかった。けれどすっぱかったでしょ。あのおみかん、サラダにすると美味しかったわよ。お隣さん(うちから見ると2軒隣)から教えてもらったんだけどね。好きな具材と、好きなドレッシングでやってみて!」と、追加のデコポンを手渡してくださいました。玉ねぎは相性が良いのでぜひ入れてほしいとのこと。

お隣さんとはよく、料理の話をします。話をしていること自体楽しいのですが、話した日はいつもより楽しく料理ができる気がします。

子育てをし始めてから、料理をする感覚が少し変わりました。元気に動き回る娘のお世話をしながら、片手間で料理をします。意識をむけている割合は、料理が2、娘に8くらいです。注意していても、調理中にグッと集中してしまうことがあります。そういう時に娘がいたずらをしていたり、危険なことをしようとしていたりなんてことがよくあるので、意識して料理に集中しないようにしています。出産前とは違い、自分の世界に浸り料理を楽しむことはしなくなりました。

片手間に料理をするようになってからは、同じような思考回路から抜け出せず、料理が単純作業のようになりがち。調理中の思考回路は料理に現れると思います。だからどんな気持ちで料理をするかというのはとても大事。せっかくなら気持ちのこもった料理で、家族に体の栄養だけでなく心も満たされてほしいです。

お隣さんと「今日は何作ろうかね」なんて話をするだけで自分の凝り固まった意識が解されていき、気分転換になります。いつもとおんなじ焼き茄子を作っても、その日はなんだかいつもより焼き色が綺麗に仕上がるような。いつもよりほんのちょっとよかった。そんな日常が送れたら幸せです。

 

作り方は “デコポンと、玉ねぎと、その他お好きな具材とお好きなドレッシングで。以上!” ですが、せっかくなので我が家で作ったものをご紹介します。

キャベツに、玉ねぎ、わかめ。たまたまあった食材ですが、全て春が旬。サラダというか和え物でしょうか。まぁ名前なんてなんでも良いのです。窓を開けても寒くなくなった季節に、春風にあたりながら食べた旬のサラダは美味しかったですよ。

【 材料 】
・キャベツ 1/6玉
・玉ねぎ 1/2個
・乾燥わかめ 10g
・デコポン 1個

─ ドレッシング ─
・レモン汁 大さじ1と1/2(1/2個分くらい)
・天然塩 小さじ1/2
・胡椒 適量
・昆布粉 適量
・薄口醤油 大さじ1
・オリーブオイルまたはサラダオイル 大さじ2

レモン汁、塩、胡椒、昆布粉、薄口醤油をよく混ぜ、油を少しずつ入れながらよく混ぜる。


【 作り方 】
(1) キャベツはざく切りにして洗う。玉ねぎは薄切りにして水にさらす。わかめは水で戻す。デコポンは食べやすい大きさにちぎる。
(2) キャベツを蒸し煮にする。キャベツを鍋に入れ、水50mlくらい入れて蓋をして火にかける。ぐつぐつしてきたら弱火にする。色が鮮やかになり、火が通ったら蓋を開け、水分を飛ばす。ザルにあげて、軽く水をかけて触れられる温度になったら絞る。
(3) 玉ねぎ、わかめは水からあげて絞る。
(4) ボウルにキャベツ、玉ねぎ、わかめ、ドレッシングを入れてよく混ぜ、デコポンも入れて軽く和えたら完成。

 

春は、筍が出回るだけでわくわくします。食卓で春を満喫して、ささやかな喜びのある日常を送りたいと思います。春酒も大好きです……飲みたい……。

  次回は『雄太さんの無水蒸し』をご紹介します

もりえりロゴ

日非日非日日とは
もしもの時の準備の準備とは

この記事を書いた人

もりえり。
もりえり。料理人
鎌倉市在住の料理人です。『もりえり。』と呼ばれています。
数店舗の日本料理店で調理を学びましたが幼少期より母親に教えてもらった愛のある料理が学びの基盤です。

苦手なことは、言葉で想いを伝えること。
得意なことは、料理で想いを伝えること。

趣味は料理以外にフットサル、釣り、スケボー、寝ることです。