伊織さんのトマトに蜂蜜かけたん
【料理人・守永江里の名もなき料理】


料理名がつけられておらず、ごく普通に家庭の食卓に並ぶ『名もなき料理』を研究しているのが、山口県出身の料理人・守永江里さん。今回は「伊織さんのトマトに蜂蜜かけたん」をご紹介。

非日常にはいつもの食材が手元にない。そんな時に、ありもののなかでどう料理するか。思考を柔らかくする料理記事です。

[名もなき料理とは]

 

伊織さんに教えていただいた名もなき料理、第二弾。前回は、しらすと茗荷の和えたんでした。今回はトマトを使った一品です。

私はトマトが大好きで、夏でも冬でも、大玉トマトを丸かじりしています。トマトの味が好きなので、味付けをしたり調理をしたりすることなく、そのままかぶりつきたいのです。
今回教えていただいた料理“ トマトに蜂蜜かけたん” は塩や蜂蜜をトマトにかけます。

蜂蜜味になってしまうのかな?と思ったのですが試してみてびっくり!蜂蜜のおかげで、トマトの青っぽさが消えていました!塩のおかげで、旨味が増した感じです!トマトそのものの味が好きな人も、トマトは調理して食べたいという人も、いろんな人に気に入ってもらえる味だと思います。

いつも、手を加えすぎない一手間で、素材の味を生かされる伊織さん。そんな伊織さんに、お料理をする際に気をつけていることを聞きました。

「料理をするときに気をつけていることは、疲れやマイナスの感情を台所に持ち込まないことかな。昔、結婚して間もない頃、今までの一人暮らしと違って、マイペースで生活出来ないことに疲れて、暗い顔で料理をしていた時、家に来ていた主人の父に、『お義父さんはな、仕事でどんなに大変で苦しいことがあっても、家の玄関を開ける前に気持ちを切り替えて、家庭には暗い気持ちを持ち帰らんように気をつけてきた』と言われて、はっ!とさせられたの。それ以来、料理を食べてくれる相手のことを考え、気持ちを切り替え、出来るだけ、無心を心がけるようになったよ。目の前の素材や、今に集中すると言ったら大げさだけど、そんな感じです」

そして、「料理って、手先から作り手の気が入ると思いませんか?」と伊織さんは言いました。とてもよく分かります。料理の修行をしていたときに、厳しく教えてもらえるのはありがたいけれど、厨房で怒鳴り声が響き渡っていることに、毎日違和感を感じていました。ピリピリした空気の中、肩をこわばらせながら緊張して仕事をします。食べ手の気持ちを考える余裕はちっともありません。細かい手仕事や、繊細な味付けで失敗することができないので、当然かもしれません。

ですが、私は人が料理を通じて、人にしてあげられることは心を込めて作ったもので温かい気持ちになってもらうことだと思っていたので、肌には合わないと思いながら働いていました。伊織さんのお話を聞いて、その頃を思い出しました。

美しくて、確実に美味しい料理はコンビニでも食べられるし、機械が作ってくれるでしょう。相手を思って料理をすることは、人だけができることです。目の前の素材や今に集中して料理を楽しむことは、人だけが楽しめることです。

トッピングに玉ねぎを散らしていますが、甘酢漬けにしたものやらっきょうを刻んだものでも美味しいそうですよ。

【 材料 】
・トマト 2個

・塩(天然塩が良い) ふたつまみ
・蜂蜜(非加熱が良い) 小さじ1〜大さじ1/2

・玉ねぎ 適量
・大葉 適量

【 作り方 】
(1) トマトの皮を湯むきする。ヘタをくり抜き、反対側に十字の切り込みを入れる。鍋に沸騰した湯を用意し、30秒くらい入れて、取り出し、すぐに氷水の中に入れる。手で皮を剥いて水気を切っておく。固いトマトは長めに1分くらい茹でると皮が剥きやすいです。トマトの個体差に合わせて茹で時間を調節してください。
(2) ①のトマトを櫛形に切り、器やボウルに入れ、蜂蜜をかける。次に塩を振る。冷蔵庫で3~4時間冷やして寝かせる。
(3) 玉ねぎはみじん切りにし、水にさらしておく。大葉は細かく刻む。
(4) トマトを冷やし終わったら、お皿に盛り、③の玉ねぎと大葉、トマトからでた汁をかけていただく。

相手のことを思って作ったのに、反応がない。毎日一緒に暮らしている家族なんてそんなもんですよね。私は恥ずかしくて、言葉ではうまく伝えられないけれど、料理に思いは込められます。毎日お疲れ様。いつもありがとう。って。

家族もきっと同じで愛を受け取り、返してくれています。料理を食べることで、こちらこそありがとう。って思ってくれていると思います。言葉ではなく、そういうのを感じ取れた時、あ~家族になったなぁ。って思います。

次回は『由香里さんの厚揚げと胡瓜の炒め物』をご紹介します

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この記事を書いた人

もりえり。
もりえり。料理人
鎌倉市在住の料理人です。『もりえり。』と呼ばれています。
数店舗の日本料理店で調理を学びましたが幼少期より母親に教えてもらった愛のある料理が学びの基盤です。

苦手なことは、言葉で想いを伝えること。
得意なことは、料理で想いを伝えること。

趣味は料理以外にフットサル、釣り、スケボー、寝ることです。