料理名がつけられておらず、ごく普通に家庭の食卓に並ぶ『名もなき料理』を研究しているのが、山口県出身の料理人・守永江里さん。今回は「森家の朝の素揚げ」をご紹介。
非日常にはいつもの食材が手元にない。そんな時に、ありもののなかでどう料理するか。思考を柔らかくする料理記事です。
[名もなき料理とは]
山形出身の森さんに、米農家であるご実家での朝ごはんについて教えていただきました。夏になると毎日食べていたという朝ごはんは、夏野菜の素揚げ。おばあちゃんが、畑からとってきた野菜で、採れたてのものをシンプルに素揚げで食べるというもの。盛りになると、毎日たくさん成るから食べないと!という感じで大皿に盛られて出てくるそうです。味付けはシンプルに、生姜醤油で。
森家のおばあさん、おじいさん、お父さんは、朝四時から農作業をされます。朝日を存分に浴びて一汗流した後の、採れたて野菜の素揚げ。まちがいなく一日の元気の源となるでしょう。
ある小説で、自然は様々な方法で天候を知らせてくれている、ということを知りました。蟻が列になって卵を運んでいるのを見かけたり、ツバメが低いところを飛んでいたら雨が降る前兆。またトウモロコシがいつもより深く根を張ったり、つる植物の絡みつく感覚が狭くてきっちりしているというような年は強風が吹くとか。
「それなのに、すっかり鈍感になった人間は、そういうサインをほとんどスルーして、誰かのもたらしてくれるデータの数字にばかり頼ってしまう」(雪のなまえ/村上由佳 著・徳間書店より)
それと同じく、毎日自然と触れ合い、自然対話されている森家の皆さんは、この野菜をどうやったら一番美味しく食べられるか、きっと肌で感じて分かっておられるとのだと思います。そう感じだとき、料理人として、私も自然ともっと触れ合わないといけない気がしました。
取材の翌日、私は野菜の苗を買いに行き、庭に野菜を植えました。(笑)試行錯誤をしながら、自然とどんな対話をしていき、知識が身についていくのか、楽しみです。
野菜を素揚げして、生姜醤油につけて食べるだけ。とってもシンプルではじめ聞いたときは驚きました。でも作って食べてみると、たったこれだけの調理・味付けで十分であることがわかります。そして白ご飯に合う!私は生姜たっぷりで食べるのが好きです。この夏は美味しい野菜を見つけたら迷わずこの食べ方をしようと思います。
【材料】
・なす
・甘長とうがらし
・いんげん
・揚げ油
・生姜すりおろし
・濃口醤油
【作り方】
(1) なすは縦半分、甘長唐辛子はへたを切りそろえ、3,4箇所包丁の先で穴を開ける。いんげんは頭の部分が汚れていれば切り落とし、食べやすい大きさに切る。生姜のすりおろしと醤油を合わせておく。
(2) 高温の油で野菜を揚げる。
(3) 生姜醤油ををつけながらいただく。
今まで様々な名もなき料理にシンプルな味付けで十分なんだということに気付かされてきました。地球温暖化が進み、気候変動が多発し、日本からいつ四季がなくなるかわかりません。季節の野菜を味わい、知ることは、環境問題への取り組みの第一歩になるのではないでしょうか。
次回は『岸家のお好み焼き』をご紹介します。
この記事を書いた人
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鎌倉市在住の料理人です。『もりえり。』と呼ばれています。
数店舗の日本料理店で調理を学びましたが幼少期より母親に教えてもらった愛のある料理が学びの基盤です。
苦手なことは、言葉で想いを伝えること。
得意なことは、料理で想いを伝えること。
趣味は料理以外にフットサル、釣り、スケボー、寝ることです。
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