西村家の肝を煮たやつ
【料理人・守永江里の名もなき料理】


料理名がつけられておらず、ごく普通に家庭の食卓に並ぶ『名もなき料理』を研究しているのが、山口県出身の料理人・守永江里さん。今回は、「西村家の肝を煮たやつ」をご紹介。

非日常にはいつもの食材が手元にない。そんな時に、ありもののなかでどう料理するか。思考を柔らかくする料理記事です。

[名もなき料理とは]

「実家でよく食べてた肝の煮たやつがお母さんの料理で好きだな~」と西村さんは教えてくれました。レバーは鉄分豊富な食材のため、月経が始まった頃から体に気を使ってお母さんが作ってくれていたそうです。

そもそもレバーが好きではない西村さんは、好んで食べてはいなかったそうですが、社会人になってから美味しく感じるようになり、今では実家に帰った時に食卓に用意されていると嬉しくなる一品だそうです。

味が好きだから嬉しいというのはもちろん、お母さんが自分の体を気遣ってくれているという優しさを再認識できるから、嬉しくなると教えてくれました。私の母も同じような鶏レバーの料理を作ってくれていました。好きといえば、好きだけど、好きじゃないといえば好きじゃないかも、なんていう曖昧な感覚で食べていたことを思い出しました。

親元を離れて暮らしていると、自分の体のためを思って料理をすることはあまりありません。体調を崩してしまった時だけだと思います。主食・主菜・副菜など、バランスよく食べようとは心がけて献立を考えていますが、鉄分を補おうとして鶏のレバーを買うことは今までありませんでした。

“ 自分で作ろうとは思わないけど、自分に必要な体にいいもの ” を食べることができるのは、自分以外の作り手(ここではお母さん)がいてくれるからこそだなと思いました。西村家のお母様は、一切れでも二切れでも、箸が伸びてくれたらいいそんな思いで作り続けてくれたのはないでしょうか。

下処理を丁寧にされていたり、めんつゆを入れることで出汁を効かせた味にしていたり、鷹の爪を入れてアクセントを加えたり、体にいいものをいかに美味しく食べてもらうかという工夫が調理法からもたくさん伺えました。

以前、ピック先生のセロリスープでは『料理というものは、どんなに良い食材を使っても、相手のことを思って作っても、気が利いたものでなければその人のためにはならない』と書きましたが、この肝を煮た料理は気が利いていないように見せかけて(子供の時に食べてすぐに美味しい!大好き!もっと食べたい!とはなりにくいという点で)、とっても気が利いている料理です。

一人暮らしでは、わざわざ作らない。お店ではわざわざ頼まない。そんな限られた機会にしか口にしないのが肝の煮物。自分の健康を守ってもらっていた、隠れ贅沢な一品だと感じました。やはり心を温める料理というのは、特別な技術ではない、華美な装飾もしていないこのような一品。肝の煮物というのは、愛情をもって子育てをしている母のスキルの象徴といった感じがします。

西村家では、レバーと一緒にハツも煮込みます。二つの食感が楽しめるのもいいですね。ごはんにはもちろん、お酒のアテにもなる味付けです。ついついつまみ食いしちゃいますが、出来たては熱いので気をつけてくださいね。

【 材料 】
・鶏の肝 200g
・生姜(皮付き/薄切り) 25g
・鷹の爪(輪切り) 1本
・ごま 適量
・酒  100ml
・2倍濃縮めんつゆ 70ml
・砂糖 大さじ1
・みりん 大さじ2

【 作り方 】
(1) 肝を10分くらい水につけておく。
(2) 筋や血管を取り除いてよく洗う。
(3) 沸騰した湯に②の肝を入れて、15分くらい茹でる。
(4) 水気をよく切って、鍋に入れ、酒・めんつゆ・砂糖・生姜・鷹の爪を入れて蓋をして煮る。
(5) ある程度煮汁がなくなったら、みりんとごまを入れ、菜箸で良く混ぜながら煮汁を完全に飛ばす。

“ 料理をする ”ということにとても意味があると思います。料理をすると、たくさん気を使います。切り方、味付け、量、盛り付け、組み合わせ、温度、食感、栄養……。いつもと同じ料理、とっても簡単な料理でさえ、多くの判断をして完成させるのです。自分が料理をしてその経験をしていれば、誰かが作ってくれた料理から、相手の思いを受け取ることができるようになります。どんなに簡単なものでも、料理をする人生の方がうんと豊かになると思っています。

次回は『えりかのおやつのラスク』をご紹介します。

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この記事を書いた人

もりえり。
もりえり。料理人
鎌倉市在住の料理人です。『もりえり。』と呼ばれています。
数店舗の日本料理店で調理を学びましたが幼少期より母親に教えてもらった愛のある料理が学びの基盤です。

苦手なことは、言葉で想いを伝えること。
得意なことは、料理で想いを伝えること。

趣味は料理以外にフットサル、釣り、スケボー、寝ることです。