矢野家のかぼちゃの天ぷら
【料理人・守永江里の名もなき料理】


料理名がつけられておらず、ごく普通に家庭の食卓に並ぶ『名もなき料理』を研究しているのが、山口県出身の料理人・守永江里さん。今回は「矢野家のかぼちゃの天ぷら」をご紹介。

非日常にはいつもの食材が手元にない。そんな時に、ありもののなかでどう料理するか。思考を柔らかくする料理記事です。

[名もなき料理とは]

 

私は幼い頃、かぼちゃの天ぷらが苦手でした。幼稚園の給食で食べた時に苦手だと感じ、それまで好き嫌いがなかった私はそこで初めて自己を感じて大人になった気がしたのを覚えています。嫌いなものが出来て嬉しかったのです。私は、食を通じて幼い頃の感情をよく覚えている方だと思います。自分の子供が成長した時に、子供の頃の記憶を覚えていたいなぁと思います。

そんな話を矢野さんとしていると、矢野さんはむしろかぼちゃの天ぷらは大好きだったと言います。「お母さんが作るかぼちゃの天ぷら美味しかったなぁ。甘い蜜を絡めながらたくさん食べてた」と教えてくれました。矢野家のかぼちゃの天ぷらには天つゆや、塩などではなく、甘い蜜を絡めるそうなのです。

後日、矢野さんはお母さんに聞いてくれて、子供の頃食べていたかぼちゃの天ぷらについて教えてくれました。

「あれは天ぷらの残りを翌日にリメイクした料理だったみたい。トロッとした蜜を絡めながら食べるんだよ。おばあちゃんが農家をやっていたから、かぼちゃを一玉もらうことがよくあったんだって。なかなか消費できなかったから天ぷらをたくさん作ってたんだ。天ぷらにせずに、素揚げしたかぼちゃに蜜を絡めて食べることもあったよ。大学芋のかぼちゃバージョンって感じで!」

残った天ぷらを翌日、美味しく食べる方法があったなんて。いろんな具材の天ぷらを作るとつい残りがちですが、これならおやつにもなるしいいですね。安心してかぼちゃの天ぷらは作りすぎよう。想像していると甘じょっぱい矢野家のかぼちゃの天ぷら食べたくなってきました。

ちょっとした会話からふと思い出す母親の家庭的な味。簡単で素朴な料理だけど、そういう名もなき料理だけが思い出させてくれる感情があります。家族に愛されていた記憶。幼い頃の食卓の雰囲気。大人になってどんどん忘れていってしまうのが悲しくて、私は母親の名もなき料理をたまに思い出すようにしています。

我が家は4人兄妹で、おばあちゃんも同居していました。いつもボリューム満点の料理が食卓に並んでいました。懐かしいなぁ。実家を出てからそのような日常はないし、もしかしたらこれから先もあのような食卓は日常的に出会うことはないかもしれません。1人、2人で食べる料理と7人で食べる料理は違います。思い出すだけで心が温まる。そんな思い出を大切にしたまま年をとっていきたいと思います。

出来立てはもちろん、冷めても美味しいのでお弁当のおかずにも♪ 矢野家では、出汁醤油を使って蜜を作られるそうですが、ここでは一般的な濃口醤油とめんつゆを使った蜜でご紹介します。

材料

・かぼちゃの天ぷらの残り
・ごま


砂糖:みりん:醤油:めんつゆ:水
=6:2:1:2:2

作り方

(1) 一日経ったかぼちゃの天ぷらは、揚げ直してカリッとさせる。
(2) フライパンに蜜の材料を入れて、トロッと煮詰まるまで加熱する。
(3) 煮詰まったら火を切って、①を入れて絡める。
(4) 器に盛り、ごまをまぶしたら完成。

我が家も私が子供の頃はしょっちゅう天ぷらを食べていました。どうしてあんなに天ぷらの日があったんだろう?お母さんの天つゆ美味しかったなぁ。そういえば好きだったあの天ぷら、自分では作らないしお店でも見ることないなぁ。ということで……

次回は『守永家の魚肉ソーセージの天ぷら』をご紹介します

この記事を書いた人

もりえり。
もりえり。料理人
鎌倉市在住の料理人です。『もりえり。』と呼ばれています。
数店舗の日本料理店で調理を学びましたが幼少期より母親に教えてもらった愛のある料理が学びの基盤です。

苦手なことは、言葉で想いを伝えること。
得意なことは、料理で想いを伝えること。

趣味は料理以外にフットサル、釣り、スケボー、寝ることです。