料理名がつけられておらず、ごく普通に家庭の食卓に並ぶ『名もなき料理』を研究しているのが、山口県出身の料理人・守永江里さん。今回は「柴崎家の白菜の煮物」をご紹介。
非日常にはいつもの食材が手元にない。そんな時に、ありもののなかでどう料理するか。思考を柔らかくする料理記事です。
[名もなき料理とは]
柴崎家は私のいとこ家族です。
「白菜が安くなると、白菜と厚揚げの煮物をよく食卓の端っこに登場させるよ。」と叔母に聞いて、厚揚げラバーの私はすぐに真似してみました!作っていると、母も似たような料理を作っていたことを思い出しました。母が白菜と一緒に入れるのは、厚揚げではなく鯖缶でした。白菜をざく切りにして、鯖缶をのせ、火にかけておくだけで完成するという行程で、叔母に聞いた白菜と厚揚げの煮物の作り方と一緒だったので思い出しました。
子供の頃、母が作っているのをそばで見ていて、調味料を入れず、白菜の水分と鯖缶の味だけで整うことを知り、驚いたのを覚えています。白菜が出回る時期には度々食べていました。あんなに食べていたのに思い出す時にはきっかけを要するものですね。逆に、しばらく食べていないのに、子供の頃母と作っていたことや、花柄の陶器の器に盛って温かい状態で湯気を出しながら食卓に並んでいたことなど、いろんなことを思い出しました。
日常に食べていたなんでもない料理ですが、頭の片隅にそっとい続けていたことに、嬉しく思いました。叔母も鯖缶でもやる!とのこと。実はこの料理は、おばあちゃんがおじいちゃんの育てた白菜でよく作っていたそうです。私も年末に会いに行った際には、おじいちゃんが育てた白菜をもらって帰っていました。みずみずしくて、葉が柔らかくてとっても美味しかったです。
無農薬で作るので、洗っているとたまに虫も出てきますが、美味しい証拠だよっておばあちゃんから教えてもらいました。おじいちゃんが、暇を見つけては1日に何度も何度も畑の手入れをしていたことは今になって知りました。だからあんなに立派な白菜ができて、白菜を生かしたシンプルな味付けの煮物が美味しかったんだなぁ。この冬は、実家で食べていた頃のようにまた度々作ろうと思います。おじいちゃんとの思い出、子供の頃のこと、作るたびにもっと思い出せる気がして楽しみです。
具材を切ったら鍋に入れて火にかけ、ほったらかし。出来たては白菜のシャキッとした食感を楽しめて、翌日は味を十分に吸ってしんなりとした白菜を楽しめます。ネギや水菜を少し蒸らして彩りに加えても。
【 材料 】
– 厚揚げと煮るとき –
・白菜
・厚揚げ
・和風顆粒だし
・ポン酢
・七味唐辛子
– 鯖缶と煮るとき –
・白菜
・鯖缶
・砂糖
・醤油
(味付きの鯖缶を使うときは、味付け不要です)
【 作り方 】
(1) 白菜は洗って食べやすい大きさに切る。
(2) 大きな鍋に全ての具を入れ、蓋をして弱めの中火にかける。
(3) グツグツと水分が出てきたら弱火にして、全ての具材に火が通るまで煮る。
(4) 厚揚げと煮たときは、お好みでポン酢や七味唐辛子をかけて食べる。
私は、幼少期から夕食作りをする母の姿を見るのが好きでした。夜に行く習い事の前に、いそいそと晩御飯を作っていた姿、朝日がさす台所で、お花見弁当を作ってくれた姿、お父さんが持って帰ってきた生きた車海老を、怯えながら調理する姿。母は料理が苦手だ、献立が思いつかないなどとよく言っていたけれど、いつも穏やかな気持ちで作ってくれていたことに何よりもありがたく思います。
次回は『細田家の野菜餃子』をご紹介します
この記事を書いた人
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鎌倉市在住の料理人です。『もりえり。』と呼ばれています。
数店舗の日本料理店で調理を学びましたが幼少期より母親に教えてもらった愛のある料理が学びの基盤です。
苦手なことは、言葉で想いを伝えること。
得意なことは、料理で想いを伝えること。
趣味は料理以外にフットサル、釣り、スケボー、寝ることです。
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