料理名がつけられておらず、ごく普通に家庭の食卓に並ぶ『名もなき料理』を研究しているのが、山口県出身の料理人・守永江里さん。今回は「お母さんが作ってた甘酒煮」をご紹介。
非日常にはいつもの食材が手元にない。そんな時に、ありもののなかでどう料理するか。思考を柔らかくする料理記事です。
[名もなき料理とは]
新型コロナウイルスの感染状況が落ち着いてきた頃、久しぶりに実家に帰りました。実家は山口県の萩市にあり、日本海に面した街なので魚介類がとっても美味しいです。帰ったら毎日のようにお刺身を食べます。帰省最終日の晩にも、思い残すことのないようにとお刺身を何種類も食べました。
その日の食卓に、お刺身とともに里芋の煮物が並んでいました。優しい甘さでほっくりと柔らかく煮えていてとっても美味しかったです。「甘酒で煮てみたんよ。なんかいつもより柔らかくなる気がする。」と母は言いました。
私は根菜を甘酒で煮たことはなかったので、調理中にどんな味の変化になるのだろうと気になり、鎌倉の家に帰ってきてすぐに真似して作ってみました。「里芋とごぼうを買ってきて、お母さんが作ってた煮物を作ろうと思う」と夫に言うと「お母さんが作ってたのは、里芋と鶏肉だったよ」と。数日前の出来事だったのに、そう言われるとそうだったかもしれないと思い、ごぼうではなく、里芋と鶏肉で作ってみました。
美味しくできたので、母に「真似して作ったら美味しかったよ」と写真付きでメッセージを送ると、「鶏肉入れたんだね。美味しそう」と返事が来ました。あれ?お母さんが作ったのは何だった?と聞くと、「里芋とごぼう」とのこと。やっぱり私が合ってた! けれど、夫に「鶏肉だったよ」と言い切られると、鶏肉だった気がしたのです。
いつもなら、食べたことのない調味料の組み合わせや、調理法を見かけた時、どうやって作っているんだろう、と色々想像して、味わうことより考えながら食べてしまいます。考えながら食べるのでしっかり覚えていて、家に帰って真似して作ってみます。職業柄、ずっとそんな食べ方をしてしまいます。けれど、真似して作りたいと思ったのに、ごぼうだったか鶏肉だったか、具材さえ忘れてしまいました。
実家で食べていたご飯は、頭は使わず、心で食べていたということだと思います。無意識にいつものように考えることをやめていました。よく味わい、母の料理を噛み締め、心の栄養を吸収したいと思ったのでしょう。
帰省最終日の晩は少し寂しくなります。鎌倉の家で3人暮らしをしている時も、毎日楽しく暮らしていたはずなのに、実家はまた心地がよく、遠いのでなかなか帰ることができないと思うと、もっと長くここにいたいと思いました。
母の温かい煮物を食べていると、「戻りたくないなぁ」と素直な思いを言葉で表すことができました。母は、温かくて優しい甘さの煮物と、「自分の家に帰りなさい」の一言で背中を押してくれました。
ごぼうも、鶏肉も、どっちもオススメです。里芋、ごぼう、鶏肉、全部入れても美味しそうです。
【材料】
・鶏もも肉 1枚
・里芋 5~7個
・かつおだし 300ml
・甘酒 大さじ3
・濃口醤油 大さじ2
・青のりorあおさ 適量
【作り方】
(1) 里芋は皮をむく。鶏肉と里芋を一口大に切る。
(2) 鍋に、①とかつおだし、濃口醤油、甘酒を入れて、火にかける。
(3) 煮立ったら落し蓋をして、弱火でじっくり煮る。
(4) 具材に火が通ったら、落し蓋を取り、水分を飛ばしながら煮上げて完成。お好みの味の濃さになるまで、煮つめてください。
キメが細かく、ねっとりした食感の里芋が大好きです。美味しい里芋に出会うことは、冬の楽しみの一つです。
次回は『釣りのおじちゃんのソース煮』をご紹介します
この記事を書いた人
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鎌倉市在住の料理人です。『もりえり。』と呼ばれています。
数店舗の日本料理店で調理を学びましたが幼少期より母親に教えてもらった愛のある料理が学びの基盤です。
苦手なことは、言葉で想いを伝えること。
得意なことは、料理で想いを伝えること。
趣味は料理以外にフットサル、釣り、スケボー、寝ることです。
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