矢野家のいつものししとう
【料理人・守永江里の名もなき料理 】


料理名がつけられておらず、ごく普通に家庭の食卓に並ぶ『名もなき料理』を研究しているのが、山口県出身の料理人・守永江里さん。

実家のお庭で育てた夏の味、「矢野家のいつものししとう」をご紹介。

山形の実家を離れて、神奈川で暮らしている矢野さん(26歳)のおはなし。

“ いつものししとう ”

矢野家では、この一言で通じる料理があったそうです。それは、お庭で育てた摘みたてのししとうを炒め煮にした一品。「物心ついた頃にはもう食べてた気がするよ」、夏の思い出とともに記憶に残っていた、滋味深い味について教えてもらいました。

「夏には必ず食卓に置いてある、常備菜。このししとうだけで、白ご飯をたくさん食べてた。ずっと食べ続けられそうなくらい美味しい味付けだったんだけど、お客さんが来た時には食卓に出てこなかった。見た目が地味だからかな。うちの家族しか食べてないものだった」

普段の食卓に馴染んでいて、見慣れた料理は、なんとなくお客さんが来た時にお出しするのを躊躇します。外食やパーティーとは違って写真で記録をしないし、人に話すこともあまりないですよね。でも、そのような媒介を必要とせず、心で食べた料理はそっと記憶に残り続けるんだなと思いました。

『名もなき料理』の取材をしていると、“ 何年間も忘れてたけど、こんなものがうちにあった。話していたら急に思い出したよ ”とよく言われます。特別大切にしていた記憶ではなく、わざわざ誰かに話すものでもないけれど、思い出すと愛着があってあたたかい気持ちになる、そんな料理がみなさんの日常にもありませんか。

『あの時のあれ、美味しかったなぁ。』って、しみじみ思い出す味で、いつまでも矢野さんは家族とのつながりを感じることでしょう。お客様と、何年も、思い出の味で繋がることができる、そんな料理が作れる料理人に、私もなりたいです。

矢野さんのお母様の味をイメージして私が作ったものです。

実際は、山形のだし醤油をお使いになるそうですが、ししとうが出回る時期に家庭によくあるめんつゆで代用しました。できたても美味しいですが、冷めたものが私は好きです。白ご飯のお伴に、お酒のあてに、万能な常備菜ですよ。

【 材料 】

・ししとう ‥ 60g/小さいもので15本くらい

– 合わせ調味料 –
・めんつゆ * ‥ 大さじ3
・料理酒 ‥ 大さじ2
・濃口醤油 ‥ 小さじ1
・みりん ‥ 小さじ1
・砂糖 ‥ 小さじ2

・菜種油 ‥ 小さじ1

※めんつゆは、かつおだし(200ml)+みりん(50ml)+濃口醤油(50ml)を一煮立ちさせたものを使用しています。市販のめんつゆ(ストレート)でもかまいません。

【 作り方 】

⑴ししとうは軸を短く切って、2~3箇所切り目を入れる。

⑵フライパンに油をしいて、ししとうを炒める。全体に焼き色がつき、しんなりするまで。

⑶合わせ調味料を入れ、蓋をして弱火で5分くらい煮る。
焦げないように様子を見ながら途中混ぜる。

⑷蓋を取って水分を飛ばしたら完成。

ビジュアル的にこだわり、インパクトを与える料理よりも、見た目は地味だけど、数年後にふと、「美味しかったなぁ・・また食べたいなぁ・・」としみじみ思い出してもらえるような料理を作る料理人になりたいです。

そのような料理のレシピはどこにもない。技術に頼るものでもないと思います。名もなき料理に触れ、これからも感じ続けてみます。

次回は『大槻家のピーマンごはん』をご紹介します

この記事を書いた人

もりえり。
もりえり。料理人
鎌倉市在住の料理人です。『もりえり。』と呼ばれています。
数店舗の日本料理店で調理を学びましたが幼少期より母親に教えてもらった愛のある料理が学びの基盤です。

苦手なことは、言葉で想いを伝えること。
得意なことは、料理で想いを伝えること。

趣味は料理以外にフットサル、釣り、スケボー、寝ることです。