実践で試して初めて「災害に備える」こととなる
【加藤小也香の趣味・防災】


スマートニュース子会社で事業開発を担当している加藤小也香さん。「旅と旨いもんと旨いものを作る人」を愛する彼女の最近の趣味は「防災」。買って使って初めてその意味を理解する。そんな防災道を歩む加藤さんの体験記です。

はじめまして。加藤小也香です。48歳いまだ独身。普段はメディアベンチャーで経営企画の仕事を。その前は記者。学生時代はバックパッカー……。振り返れば、何やらリスク多めの無計画人生となっています。

そんな私に今年初め、「備える」という目標が降ってきました。カラダの衰えに「備える」、経済環境の変化に「備える」、職場で使いモノにならなくなることに「備える」、自然災害に「備える」……、少し前に子宮をやられ、気が弱くなっていたのかもしれません。

家計簿をつけ貯金を始めてみたり、自炊を中心にして体重を落としたり、いまさらながらの生活再建を始めました。そして何より、自然災害の可能性に本気で向き合った。防災本を読みあさり、自治体の災害講座に参加し、さまざまなグッズや防災食を買い、試し、食べました。そうして、自分なりに満足のいく準備ができたかなと思った頃、「新型コロナウイルス」がやってきたのです。

想定した(地震や水害などの)災害とは異なる形でしたが、準備は驚くほどに役立ちました。マスクや消毒液のために行列することも、お米や小麦粉のために混んだスーパーに行くこともなし。外食機会の激減もなんのそのの、1カ月近い完全おこもり快適ステイホーム。備蓄と、鍛え上げた食糧調達ネットワークが大活躍だったことで調子に乗り、連載を持つことになったのです。

とは言え、私は防災の専門家ではありません。それらしき経験といえば、阪神大震災、東日本大震災と2度、プロボノをした程度。しょせん「趣味・防災」レベルです。ですが、この連載では、そんな素人だからこその備え方を、失敗体験も交えながらご紹介していかれたら嬉しいな、と思っています。

防災クッキングの定番「アイラップ」

さて、第1回のテーマは、迷ったすえ「米を炊く」にしました。

アルファ米やパックご飯など、幾らでも簡単でおいしい保存食品があるなか、「何も災害時までナマ米から炊かなくても」というお声もあろうかと思うのですが、内閣府のデータによると、仮に首都直下地震に見舞われた場合の都心のライフライン復旧目標日数は、電気6日、上水道30日、ガス55日。結構な長期戦が想定されています(参考:居住地ごと復旧予測「地震10秒診断」)。

ましてやコロナ禍で、在宅避難が推奨される昨今、自治体の支援に過度な期待はできないですし、物流復旧直後のスーパーやコンビニに人が殺到するのも目に見えています。そんな状況に置かれても、自宅にあるもので、平時に近い食生活を営めたら少しは心も穏やかであろうはず。何はなくとも炊飯ぐらいはできる自分であれたら、と思ったのです。

色んなやり方がありますが、いちばん汚れ物が少ないのはこれ。
早速やってみましょう。準備いただくのは、

①カセットコンロ
②ポリ袋
③いつものお米 1/2カップ(80g)
④水 110ml、ほかに水を張った鍋も必要です。

 

ポリ袋は、私は耐熱温度が120℃と強力な、岩谷マテリアルの「アイラップ」を3箱ほど常備し、日常生活でも使っています。60枚で100円ちょっととリーズナブルなうえに、レンジ調理や冷凍保存にも耐える優れもので、煮たり蒸したり炊飯以外にも様々な“防災クッキング”に使えます。北陸地方中心の売れ筋の商品ですが、最近は全国展開のネット通販などでも購入可能。

準備ができたら、ポリ袋に米と水を入れ、空気を抜いて袋の上部を結びましょう。米を研ぐ必要はありません。無洗米ならさらに良し、かもですが、最近のお米は精米歩合が高いこともあってか、炊き始める前に15分ほど浸水させればヌカ臭さはほとんど気にならなくなります。

袋は、お湯を沸かした鍋の中へ。そのまま弱火で30分、火をとめて10分むらせば完成です。災害時は水が貴重品ですから、小さな鍋に蓋をしてなるべく蒸発を防ぐようにするとベターです。鍋底に袋が張りつかないよう皿など敷くとより丁寧ですが、私は洗い物を増やさないこと優先。テフロン加工してある厚めの鍋で幾度か試していますが、破れたことはまだありません。

カセットボンベの持ちは強火で1時間

ここまで読まれて「なぁんだ簡単」「やってみるまでもない」と思われた方。それでも是非、やってみていただけたら嬉しい。

というのも私には、2011年の東日本大震災時、苦い経験があります。ガソリン補給なしにギリギリ往復できるプリウスに心ばかりの物資を積んで現地に向かいました。被災された方々の食事を自分たちがいただくわけにはいきませんから、カセットコンロに食材と準備は万端。けれど、イメージした通りになんて全く行きませんでした。

凍える寒さや暗い時間の長さ、洗い物やゴミを想定しきれていないメニューや意外に多く使う水分など落とし穴は無尽蔵。結局ほとんどの時間を冷たい菓子をかじって過ごすことになってしまったのです。

以来、私にとっての「災害に備える」は、「物を買い揃えておしまい」ではなく、実際の状況を想定したうえで「幾度か練習してようやくおしまい」になりました。

今回の炊飯も(本来なら併行して同じ鍋で煮物や汁物を作りたいところですが)、たかだかこれだけの工程でも実際にやってみると気づくことは沢山あります。炊けたご飯を盛ろうとして、普段づかいの茶碗を汚したり、それを洗おうと思っても災害時は水は出ないんだ、と気づいたり。そして特に気になってくるのが燃料の減り。

メーカーのホームページを見るとカセットボンベの持ちは「(3.5kWのコンロの場合)強火で1時間」と出てきます。弱火の場合は推定3〜4時間。つまり、朝晩と1日2回お米を炊くだけでも3日ほどで使い切ってしまう計算になります。そこで改めて都内のライフライン復旧目標日数(内閣府)を見ると、ガスは戻るまで約2カ月。

約2カ月分のガスボンベって、いったいどこに収納すればいいんだ!!!

……という話では勿論なくて、そこで必要になってくるのが災害発生後の復旧順序に合わせた複合的な備えとなるわけです。その一つが例えば、バックアップ電源と電磁調理器の準備。

次回はそのあたりについて、またご一緒に考えていかれればと思います。

この記事を書いた人

加藤小也香
加藤小也香
旅と旨いもんと旨いものを作る人を愛する48歳。最近は趣味・防災道を邁進しながら、第2の故郷と信じる福島・郡山市の食材をひたすら消費中。本職は、日経BP記者、グロービス広報室長/出版局編集長、trippiece執行役員を経て、現在はスマートニュース子会社で事業開発をしています。