震災時に“誰かのため”に「パエリャ」、結城優さんに学ぶ
【加藤小也香の趣味・防災】


スマートニュース子会社で事業開発を担当している加藤小也香さん。「旅と旨いもんと旨いものを作る人」を愛する彼女の最近の趣味は「防災」。買って使って初めてその意味を理解する。そんな防災道を歩む加藤さんの体験記です。

今回は、震災時に適しているというパエリャについて。

過日また大きな地震があり、しかも東日本大震災の余震とのこと。地球の時間の長さと、自分たちの無力さを、改めて思い知らされた感じがします。

FacebookやTwitterのタイムラインに流れてくる友人たちの自宅や店の倒れたタンス、大量の割れたグラスなどに胸を痛めつつ、被害の少なかった仲間がすぐに駆けつけて掃除を手伝ったり、「明日はお天気らしいので片付け日和です」「もう元通りです。福島は強い」なんてメッセージを送ってきてくれたりするさま、そのレジリエンスに勇気づけられる思いもしたり。

 

パエリャ=彼女のために

いつかまた大きな地震や津波が来たら、と様々な準備をするなかで最近は、自分や家族のためだけでなく、「地域のために自分にもできるようなことがあるのだろうか」という思いが募り、自治体のボランティア講習に参加してみたりしています。

あとは、炊き出しとかも積極的にできたたたらいいなぁ。野外で火をおこして飯を炊けるようになりたいなぁ。

そう思って、最近、キャンプやBBQを趣味にしている方々に話を聞いてまわっていたら、なんとスペインのバレンシアで行われた「国際パエリアコンクール」で優勝したという日本人シェフ、結城優さんに流行りのClubHouseでインタビューする機会をもらいました。

シェフいわく「パエリャは震災時にとても適していると思いますよ」。なぜなら大鍋で一度にたくさん作ることができ、しかも米と具材が入る完全食、味つけもしっかりとされており、それだけで大勢で満足できるから。

そして何より感動したのが、パエリャの語源(小さな“ャ”なのもポイント)。諸説あるようですが、シェフが教えてくださったのは「para(英語のfor)」+「ella(英語のshe)」。つまり「彼女のために」。男性が愛する女性のために作る食事、転じて「誰かのために」という気持ちが、パエリャの精神だというのです。

ちなみに、日本でパエリャというと、黄色いサフランライスに魚介類がたっぷり入ったものをイメージされる方が多いと思うのですが、元祖はバレンシアで生まれた肉主体の「パエリャ バレンシアーナ」。鶏やウサギの肉に、カタツムリやモロッコインゲンなどが入るもので、1000年を越えて今も食べ継がれているのだそうです。

その後、鉄製の丸鍋を使い、スープで米を炊く手法が各地へと伝わり、様々なレシピが登場したそうで、「丸い鍋で作る米をおいしく食べる料理」それを「皆で食べる」のがパエリャ。だから、良いパエリャというのは、どんな大きな鍋で作っても、ソカラッと呼ぶおこげが均等に入っている=皆がおいしい部分をいただける。そんな仕上がりを目指すのだそうです。

食材の声を聞き、火力と温度を制御する

確かに炊き出し向き。「でも、シェフが来てくださらないと、なかなかおいしいパエリャにはならなそう」と思わず本音を漏らしたら、パエリア検定というものを作り、技術や知識を持った人材の育成にも務めていることを教えてくださいました。「パエリャの精神を大切に、おいしいパエリャを作れる人を増やしたい」のだそう(次回検定は3月27日にあるそうです。詳細はこちら)。

上級の資格取得を目指して練習中の方たちに聞くと、難しいのは、火加減、水加減みたい。炊いた米に後から味つけをするチャーハンなどと異なり、パエリャはおいしいスープを米にしっかりと閉じ込めて炊くのがポイント。ただ、お米がどんどんスープを吸っていくので、うまく塩梅しないと、仕上がりが塩っぱくなったり、逆に薄味になったりしてしまうのだそうです。

うまく味がついても、今度は鍋底で上手にソカラッができなかったり、焦げすぎて米が炭みたいになってしまうことも。シェフいわく「火柱を小さくすれば温度が下がるわけではない」。焦げる、と思ってから火を小さくしても、熱くなった鍋や食材がすぐに適温になるわけではない。鍋底の厚さも場所によって違ったりする。それを踏まえての温度管理がとても大事だというのです。

ましてや野外料理での火は薪を燃やしての焚き火。それも生の樹なのか、しっかり乾燥されているのか、針葉樹か広葉樹か、“プロ”の皆さんいわく「オレンジ系の樹は油分があるから、よく燃える」。んー、奥が深い。

いきなりハードルあがった感がありますが、どんな時にも旨い飯を食べたいし、食べさせたい人としては、これは是非、挑戦してみたいな、と思ったのでした。

安全か、衛生的か、地球に負荷をかけないか

バーベキュー検定(というのもあるそうです)を取ったという方にも話を伺いました。印象的だったのは、安全配慮についてのコメント。子どもの頃から調理に親しみ、キャンプでもダッチオーブンやグリルを使って様々な料理をしていたその方は、近所で偶然に見かけた検定の存在に当初は懐疑的だったのだそうです。普通にすればできることを金儲けのタネにされている感覚のほうが強かった、と。

ところがある時、なぜか誘われるように会場に行き、講習を受けてみると、「大変に勉強になった」。野外調理で安全に火を扱う方法や、食中毒を避けるための様々な衛生管理など、ロジカルな説明により理解できたのが良かった、と言われていました。

私にとっても、これは目からウロコでした。非常時にも旨いものを作りたい。その意気やよし。でも、それ以前の問題として、人にも食べさせたいと思うなら、安全なものでなければいけない。そのことを忘れていたことに気付かされたのです。

日頃は、充分な水を使って食材や調理器具を洗えるし、火をしっかりと通すことも、煮沸消毒もできる。肉や魚は温度管理をしっかりとした冷蔵庫に保管しています。ところがライフラインが途絶えるような災害時においては、そうした当たり前が一切、通用しなくなってしまう。

そんなときにどうやって衛生を守るか。或いは、住宅が密集するような場でどうやって安全かつ環境に負荷をかけず火をおこすのか。もちろん、消毒剤や使い捨ての手袋、大量のガスボンベなど、あまり防災に関心がない方に比べたら、準備はしているほうと思いますが、「趣味・防災」と言いながらも、自分はまだまだヒヨッコ。落ち着いて行動できるには、まだまだ知識も技術も足りないな、と思わされたのでした。

この記事を書いた人

加藤小也香
加藤小也香
旅と旨いもんと旨いものを作る人を愛する48歳。最近は趣味・防災道を邁進しながら、第2の故郷と信じる福島・郡山市の食材をひたすら消費中。本職は、日経BP記者、グロービス広報室長/出版局編集長、trippiece執行役員を経て、現在はスマートニュース子会社で事業開発をしています。