震災時にも“旨いものを食べさせられる”、そうありたい。
【加藤小也香の趣味・防災】


東日本大震災後の宮城・女川町で「津波の夜、偶然にトロ箱で流れてきたサンマを皆で焼いて食べた」という話を聞きました。

1波、2波と幾度も分厚い海水に押し流され、身近な人を見失い、凍え切った身体を焚き火で温めた。その火で焼いた特産のサンマは、さぞかし特別な味がしただろう、全人生に沁み入るほどの味がしたことだろう、と思った記憶があります。(TOP写真は気仙沼のもの)

その後、避難生活に入り、住まいを失った方たちは学校の体育館などに。かろうじて自宅が残った方たちは在宅で。町の全域が甚大な被害に遭い、道路や店の再開の目処など一切たたない中にあって、でも、自宅避難の方が避難所に食糧や水を貰いに行くことは「申し訳なくてできなかった」と聞きます。

住まいはかろうじて残っても、水道やガス、電気などのライフラインは途絶えている。家族や友人を亡くした人もいる。それでも「申し訳ない」。より多くを失った方々の前に、どんな表情で立っていいか分からない−−。

そんな感情に直面したとき、自身の心と日常の両方を守るのはシンプルに、手持ちの物資がどれだけあるかに尽きる、と、私は思いました。そして併せて、もし自宅が無事であったなら、ケチケチせず周囲にも旨いものを食べさせられる人でありたいな、とも。

写真は気仙沼のもの

備蓄リストは「時系列✕被災場所」で用意する

では、何をどれだけ備蓄すればいいのか。前回、災害時の備えはライフラインの復旧を時系列で想定しながら行いたい、と書きました。

私たちを今後、襲うのが地震か豪雨か(はたまた新手のウイルスかサイバーテロか)、それは予測不能ですが、過去に倣うなら、

●最初の数日間は散乱したものの片付けなど生活スペースの確保で精一杯。面倒な調理なしに、すぐに食べられるものが必要

●ライフラインは概ね、電気→水道→ガスの順に復旧する。特に水道やガスは1カ月を超える可能性も。なのでカセットコンロに加えて電磁調理器があると便利。生活水もしっかり備えたい

●コンビニやスーパー、ガソリンスタンドといった店舗は当面、混雑・混乱を極める。東日本大震災の際には物流再開に平均2週間を要した。この間の買い物は恐らくかなり難しくなる

といったあたりが所与になろうかと思います。そこに

●家族も含め、自宅で被災するとは限らない。水分や常用薬など生命維持に関わるものは常日頃から持ち歩きたい

という要素が加わります。

これらを勘案し、私は、
①外出先での被災に備え持ち歩く「最小最軽量の防災セット」
②避難所などへの持ち出しも可能な「初動3〜5日分の防災セット」
③その後の長期戦を視野に入れた「自宅避難用の備蓄」
に大別して必要なものを買い揃え、置き場や更新時期を一覧できるリストを作りました。

詳細は、いずれ機会あれば紹介できればと思いますが、今回は特に②の「初動3〜5日分の防災セット」に入れた食べ物について書いていきます。

常温の水でも戻せる「アルファ米」

きつい震災下で自分は何を食べたいか、食べさせたいか。できれば私も「サンマ!」といきたいところですが、残念ながら都心に住まうモヤシっ子の自分には、火をおこす技術も場所もない。魚を炙るどころか、お湯を沸かす道具すら見当たらないところからのスタートかもしれません。とは言え、いくら非常時でも、否、非常時だからこそ、食べつけないものや、まずいものは喉を通らない気がします。

色々と食べ比べた結果、準備したのは、
・アルファ米とフリーズドライの味噌汁
・スポーツ飲料や緑茶の粉末
・フルーツの缶詰、チョコレート、クッキーといった甘いもの
・そして大量の飲用水
です。味噌汁を除いては、いずれも常温の水さえあれば食べられるのがポイント。

アルファ米は、お持ちの方も多いと思いますが、雑に言うと、一度炊いたお米を乾燥させたもの。水分を加えることで食べられるようになります。水の場合は60分、お湯があれば15分ほどで戻り、水気を増やせば、粥や雑炊のようにも。

尾西食品やサタケといったメーカーの商品が、よく知られていますが、似たもので良ければ自作も可能です。戦国武将も食べた「干し飯」がそれ。興味ある方はネットに沢山レシピが出ていますので、試してみてくださいね。

こちらが水戻ししたもの。さすがに白飯の冷ごはんをそのまま、は、きつかったですが、味つきのものは思った以上に食べやすかったです。コンビニのおにぎりの感じを想像していただくといいかもしれません。

写真の「青菜ご飯」のほかにもドライカレー、チキンライス、五目ごはん、山菜おこわ・・・などなどバリエーション豊富に商品化されているので、あれやこれやと取り揃えておけば、数日ぐらいは飽きずにやり過ごせそう。ちなみに私は、鮭のほぐし身の瓶詰、佃煮、ちりめん山椒の少し贅沢なのを欠かさずにいて、海苔でクルッと巻いて食べられるようにしています。これに具だくさんの味噌汁でもあれば、日常生活でも、そこそこ幸せ(笑)。

飲む点滴「ポカリスエット」と1本100kcalの栄養補助食「カロリーメイト」

これと併せて用意したのが、水分補給の支えになるもの。体調不良の際に水が喉に入っていかないという経験は誰もが1度はしているのではと思いますが、極限の状況でも同じことが起き得ます。

そんなときでも、スポーツ飲料や具のない味噌汁といった多少の塩分を含むものなら不思議と通るもの。手術後の医師が点滴薬を飲んでいる姿が開発のきっかけになったという大塚製薬のポカリスエットは、まさにその代表格。水以外にも大量のペットボトルを持つのは、あまりに場所ふさぎなので私は、水溶性の粉末タイプを選びました。

ちなみに同じ大塚製薬の「カロリーメイト」も発想の源は点滴薬。患者が病後も経口で効率よく栄養素を取れるようにと開発されたそうで、たんぱく質・脂質・炭水化物・ビタミン・ミネラルの5大栄養素をバランスよく含むのがいいなと思い、好みのチーズ味をおやつ代わりに常備。

カロリーメイトは通常の賞味期限1年の商品に加え、災害用に賞味期限3年というものもありますので、食べては補充し、というローリングストックを面倒に感じる方には、そちらがオススメです。そうそう、先ほどご紹介したアルファ米の賞味期限は概ね5年。非常食として想起されやすいカップ麺やフリーズドライは3カ月程度と存外に短い商品も多いので、このあたりも備蓄品選びの参考にされると良いかもしれません。

そして最後に、フルーツの缶詰やチョコレートといった甘いもの。このあたりは東日本大震災を経験した方の「とにかく果物など瑞々しいものがほしかった」「甘いものに心を救われる思いがした」といったお話を参考に揃えました。

このほか数多く聞かれた「慣れない防災食で子どもが食べてくれないのが辛かった」「哺乳瓶の洗浄に困った」「温かいものが食べたかった」「が足りなかった」といったあたりについては次回、またお話できればと思います。

この記事を書いた人

加藤小也香
加藤小也香
旅と旨いもんと旨いものを作る人を愛する48歳。最近は趣味・防災道を邁進しながら、第2の故郷と信じる福島・郡山市の食材をひたすら消費中。本職は、日経BP記者、グロービス広報室長/出版局編集長、trippiece執行役員を経て、現在はスマートニュース子会社で事業開発をしています。