災害時は「1日2リットル」の水では足りない?
【加藤小也香の趣味・防災】


スマートニュース子会社で事業開発を担当している加藤小也香さん。「旅と旨いもんと旨いものを作る人」を愛する彼女の最近の趣味は「防災」。買って使って初めてその意味を理解する。そんな防災道を歩む加藤さんの体験記です。

突然ですが皆さんは、人が1日に使う「水」の量って、どのくらいだと思われますか?

私が読んだ災害対策本には「飲料用の水は1人あたり1日に2リットル目安」とありました。2リットル、つまり、2000ミリリットル……と分解してみて、なぜか思い出してしまったのが、昨年話題になった「老後2000万円問題」。

あの時、「2000万円の貯蓄で足りるかは、個々人のそれまでの生活次第」と解説されたように、「2000ミリリットルで足りるかも、個々人のそれまでの生活次第」なのではないか。というか、この2リットルは調理用など食品に含ませる水も含むのか、或いはあくまで直接、飲用する分だけなのか。考えだしたら、好奇心を抑えきれなくなってしまった。

そこで試しに1日、「災害時のつもりで使った水量を測る」というのをやってみました。今回は、その結果をご報告しようと思います(当然ながら必要な水量は各々の生活スタイルや運動量などによって異なります。あくまで一例としてご覧ください)。

結果=飲料用1.2リットル+調理用1.5リットル+生活水2.5リットル

用意したのは、こちら(下の写真)。ミネラルウォーターを2リットル✕2本、水道水1リットルの計5リットルです。ミネラルウォーターのうち1本を「飲料用」、1本をパスタを茹でたり味噌汁を作ったりの「調理用」、レトルト食品を温めたり、歯磨きしたりといった「生活水」は、水道水のボトルから使うことにしました。

そしてこちらの写真が使用後。ミネラルウォーターは飲料用1.2リットル、調理用1.5リットルの計2.7リットルを使いました。水道水はと言うと、1リットルしか用意しなかったのは完全な失敗で、起きて歯を磨き、タオルを絞って顔を拭いて、とやっていたら、瞬く間になくなってしまい、ズルして継ぎ足し継ぎ足しで、2.5リットルを使いました。

2.7リットル+2.5リットル=5.2リットル。つまり、1日5リットルの水が必要だったのです。

自分なりには、それなり工夫も我慢もしたつもり、しかも、たった1人で、この分量というのは、だいぶショッキングな結果となりました。そんな私の1日と、これは正解だったなと思えた節水テクニックを幾つかご紹介します。

AM7:00 レトルト温め用の水は専用鍋に入れて使い回し。皿にはラップ。

朝はパンを焼いたのがあったので、あとはスープを温めるだけで簡単に。レトルトパウチや缶詰を湯煎するたびに新しい水を入れるのは勿体ないと思い立ち、蓋つきのホーローを専用で使うことにしました。これは本番?でも使えそう。

また、パンを食べる皿にはラップを敷きました。洗い物の削減策。食事のたびに紙皿を使うよりゴミを減らせるし、何より普段づかいの陶器やガラス器を使うだけで随分と見栄えが華やぎ、簡素な食事の寂しさを和らげてくれるように感じます。汁物はさすがに紙コップで。

PM12:00 早ゆでパスタ最強説。塩分過多に注意が必要

ランチはパスタ。またまたレトルト食品です。スーパーマーケットのライフのPB商品「早ゆでペンネマカロニ」というのが凄く優秀で、たっぷり備蓄しているのですが、こちらを小鍋にひたひたの水で茹でて「兵庫県産バジルのジェノベーゼソース」というのをかけました。

(ちなみにパスタの茹で方には「水戻し」という手法もあり、ポリ袋とかに水を張って乾麺を数時間、浸しておくと、茹で時間や水量を大幅に節減できるのですが、こちらのペンネの茹で時間は、もともとわずか3分なので直接。鍋に蓋もして水の蒸発を防ぎ、少量の水でも無事モチモチに仕上がりました。)

誤算だったのは味の濃さ。使ったジェノベーゼソースは備蓄用に色々と味比べをするなかで気に入った商品だったのですが、試食した際にはジャガイモやスナックエンドウなど具材たっぷりにしたところ、今回はパスタだけに1袋どーん。塩っぱくなるのは当然でした。

大きな自然災害を体験した方から、よく伺う話として、「避難生活で運動量が減るのに相まって、塩分過多になるのか、むくみが酷かった」というものがあるのですが、あれはこういうことか、と身を持って実感。どうせパスタを茹でるなら、一緒に芋でも野菜でもあるものを放り込んで火を入れて、少しでも栄養バランス含めて整えるのがいいんだろうな、と思った次第。

PM6:30 まないたシートが大活躍。野菜は日ごろから洗っておきたい

夕飯は、炊き込みご飯と具だくさん味噌汁、インゲンの胡麻和えと、残り物のピリ辛こんにゃくにしました。朝昼たった2食で「具が欲しい!」「緑のものがないと心が沈む」となってしまったため。本来なら懐中電灯の明かりで調理、みたいな状況になるのでしょうが、今回は煌々と電気をつけての作業です。

まず、米をポリ袋(アイラップ)に入れて浸水開始したら、豚バラ、椎茸、小松菜を切って、同じくポリ袋に。ここで活躍したのが、平素、肉や魚を切る際にも使っている「まな板シート」です。写真はオークスという会社の「レイエ まな板に汚れがつかないシート」で50枚700円~で購入可能。洗い物を減らせるだけでなく、清潔を保つ意味でも何となく安心感があります。

小松菜は泣く泣く大事な生活水を流し、洗浄してから切りました。防災だけを考えるのなら、普段から野菜は洗ったのちに保存しておくといいのでしょうね。

20分ほど浸水させた米に、レトルトの炊き込みご飯の素を入れ、沸騰した湯の中で炊飯開始。時間差で、切った具材に出汁パック、味噌、水を足したもの、インゲンにごく少量の水を入れたもの、を入れていきます。調理用の水はもちろん朝からの使い回しです。

慣れた手つきに自我自賛。「私もすっかり防災専門家ね」と調子に乗ったところに落とし穴がありました。30分の炊飯のあと、15分程度、蒸らしたにも関わらず米に芯が残ってる・・・。無意識に水の量をケチしたことと、浸水時間が十分でなかったことが原因かと思います。ガッツリ芯が残った米はとても食べられたものではなく、これは災害時に起きてたら、本気で落ち込みそう。

水の利用は減らしつつ、除菌用アルコールなどで清潔は確保する

食後の片付けも、なるべく水を使わず。洗い物を放置すると、こびりついてウェットティッシュなどでは拭き取れなくなるので、食べるよりも先に包丁やスプーンをきれいにして、それからようやく食卓に。結果、冷めたものを食べるのもストレスがかかる体験でした。

ちなみに洗い物を減らすのに活躍したのは、前述のラップやポリ袋に加え、除菌用アルコールとペーパータオル、ウェットティッシュです。包丁や、まな板、ラップを剥がした後の皿やカトラリーなど、とにかく拭いまくりました。

家族や大切な人に食中毒を出したくないというのは勿論ですが、コロナ禍なども相まっているなかだと、水の使用量を最低限にしながら、いかにして清潔を保つかというのは知恵が試されるポイントだなぁと思ったり。

なお、野菜の洗浄や手洗いなど、どうしても水で流したい際には、ペットボトルを簡易シャワーに変えられる注ぎ口を活用。私は100均ショップで購入しました。

その他、顔やカラダを拭うのはボウルに水を張って水泳用の速乾性のタオルを絞ってやってみましたが、これは失敗。保水力のある普通のタオルのほうが、やっぱり気持ちがいいみたい(無論、雨やシャワーで濡れたカラダを拭うにはバッチリです)。

給水ステーションの場所は必ずチェックしておきたい

ある程度は想定内と言え、ますます水の重要性を知った今回。前述もしましたが、存外に使途があり課題感を持ったのが、ペットボトルの水を使うのは勿体なく感じる「生活水」の備蓄方法でした。

今回、私は2.5リットルを使いましたが、歯磨きのあと、もっと丁寧に歯ブラシを洗ったり、うがいの回数も増やしたいし、食事を作った後、ポリ袋での調理だからと言え、やっぱり鍋は洗いたいよなぁ、など、いちいち焦れました。

スペースさえ許せば、ポリタンクなどに一定量を貯めておくのが良さそう。そして何より、近隣の給水ステーションの所在は必ず事前にチェックしておきたいところです。自家用車など運ぶ手段の乏しい方は運びやすいウォーターバッグの準備もお忘れなく。

なお、よく言われることとして「風呂の水を大事に貯めておいたところで、さほど使いみちはない」「素人が下手にトイレを流すのに使ったりすると逆流の危険もある」というのがあり、私も入浴後はすぐに流してしまっていたのですが、今回の体験を通じ、キッチンの流しや洗面ボウルなど、ざっと汚れを落としたり、下水道に水を通したりするために、むしろ積極的に取っておこうと思ったことを付記しておきます。

それにしても、大切なものを沢山なくしたうえに、こんな大変なことの全てを長い時間、堪らえてきた各地の被災者の皆さんを改めて尊敬。ごくごくわずかながら、理解が深まった気がした1日となりました。

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この記事を書いた人

加藤小也香
加藤小也香
旅と旨いもんと旨いものを作る人を愛する48歳。最近は趣味・防災道を邁進しながら、第2の故郷と信じる福島・郡山市の食材をひたすら消費中。本職は、日経BP記者、グロービス広報室長/出版局編集長、trippiece執行役員を経て、現在はスマートニュース子会社で事業開発をしています。