「一番の防災グッズは知識だと思う」整理整頓しながらでも防災はできる
【防災士・溝口展子さん】


地震や集中豪雨、台風などの災害は、こちらの都合などお構いなしにやってくる。
今後30年の間に、首都直下型地震は70%、南海トラフ地震は70~80%の確率で起こるともいわれている。また近年、局地的大雨による土砂災害や河川の氾濫などの被害は甚大だ。

突然襲い掛かる災害に万全と備えるためには、防災特有の備蓄食材や用品が要るのかもしれない。
しかし、いつやってくるのかわからない災害のために、特別な防災用のスペースを、物理的にも心情的にも確保する余剰が普段の私にはなかった。
どうすれば、日常を圧迫することなく防災に備えることができるのか。
その糸口を見つけに、整理収納アドバイザー、また防災士でもある溝口さんにお話しを聞くことできた。

「備蓄というほど身構えずに」(溝口展子さん)

溝口さんは、普段は大学の研究室の事務を請け負いながら、小学6年生のお子さんを持つ母親でもあり、「ふだんはキレイで快適なのに、災害への備えがとても充実している生活のヒント」をコンセプトにSNSを通しての防災活動をされている。
過密なスケジュールを過ごしているにちがいないと想像するが、SNSに並んだご自宅の写真はどれも整然としていて美しい。

元々は、お子さんに「勉強しなさいと言わずに勉強の大切さを教えたい」との思いを、ご自身の勉強する姿を見せることで伝えようと、整理収納アドバイザーをはじめ、生前整理アドバイザーや知的財産管理技能検定など多種多様な資格の勉強をしていたそうだ。

2011年、新居を購入し、新しい鍵を受け取って翌日はさぁ引っ越しだという日に、東日本大震災に見舞われた。
冷蔵庫の電源は落としていたので食料はほとんどなく、生活に必要なものは梱包しているという状況で、地震が起こった。
小さい子どもを抱えて、混乱を極めた。
この経験からご両親にも防災の必要性を懸命に伝えるのだが、ご実家の備えはままならなかった。

その後、2018年の西日本豪雨で、ご実家は被災し、高校時代の同級生が命を落とした。
「専門の資格を取って、しっかり勉強しているんだよ、という証明できるものがないと伝わらないんだな、と気づきました。自己流で何か伝えようとしても説得力がないんですよね」と溝口さんは言う。

そこから防災士や防災備蓄収納マスタープランナーの資格を取ったり、デイリーストックアクション(※)のアンバサダーを務めたりと、防災に関する知識の後ろ盾を得ていくことになった。

現在は、ご自身で詰め合わせたオリジナルの防災食セットを両家ご実家へ贈ったりする中で、ご両親も溝口さんの思いを理解し、非常時の持ち出し袋の見直しや身分証明書に関する準備など、防災に対する意識を高めてくれているそうだ。

溝口さんのブログには、おいしさはもちろん、普段使いができ、それでいて常温で長く保存できる商品が紹介されている。
例えばコストコで買った栄養価の高いもち麦のパックや、常温で約3か月保存できる牛乳など。
Lohacoで購入できるキリンのやわらか天然水は、310mlとコンパクトだから洗面所など狭い場所でもストック可能。水をモチーフにしたパッケージもかわいい。

自分の好きなお店で長めに保存できるものを、多少多めに買えば負担にならない。

「日常の延長でいつも使っているものを少し多めに保管することで、いざという時に救われることがあるんじゃないかと思っています。
備蓄というほど身構えずに、日常にちょっとプラスするという気軽な気持ちで備えてもらうことが大切なんです」と溝口さん。

「一番の防災グッズは、知識」(溝口展子さん)

私も取材後、スーパーで意識的に探してみたが、普段使いの商品が防災用としても利用できることに気づく。
いつもより多めに(1週間~10日分を目安に)買い足して、それをいつものように消費する。減った分はまた買い足せば、日常食が非常食を兼ね備えてくれる。

他にも、常温で通常のパンより長く保存できるロングライフパンが防災食として注目を集めているそうだ。
楽天などの通販で人気のコモ(COMO)のパンやさんは、35~90日間常温保存できるのに保存料は無添加で味もおいしいと教えてくれた。

今春より、溝口さんはSNSの活動に加えて、これまで学んできた防災の知識をみなさんに直接伝えにいきたいと、防災教室の講師を務めることになっている。

「一番の防災グッズは、知識だと思うんですね。息子にもニュースを見たりするなど知識を得て、もし学校や塾にいて災害に遭い、これ以上ここにいてはダメだと思ったときは、自分で判断して逃げなさいと言ってあります。
身一つになったときに、これまで勉強してきたことが、判断材料になると思うんですね。
そういった意味でも、体系的な防災の知識を皆さんにも伝えていきたいですね」と語る。
控えめな印象だが、使命感が伝わってきた。

今後やってくるかもしれない未曾有の災害に備えるため、私でも今日からできることがありそうだ。

(※)デイリーストックアクション(DSA)とは、日常的な常温保存可能食品を一定量ストックしながら食べていこうという家庭用備蓄推進活動のこと

mizo10(みぞてん)こと溝口展子さん
広島生まれ、東京都在住。防災士/整理収納アドバイザーとしてSNSを中心に活動。防災士・整理収納アドバイザー1級・防災備蓄収納マスタープランナー・整理収納教育士・生前整理収納アドバイザー2級など多数の資格を取得している資格マニアでもある。サンキュー!STYLEライター、デイリーストックアクション(DSA)アドバイザー、防災用品の監修などを務めている。
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この記事を書いた人

しまかもめ
しまかもめフリーライター
(株)大阪宣伝研究所にコピーライターとして勤務。その後、デザイナー、編集者、フリーペーパー営業、ネットショップ企画運営を経て、独立(コトバアトリエ)。神戸市在住の3児の母。