災害時、何よりも先に必要になるのが実はトイレだ。食事はある程度は我慢できるが、排泄はまったなし。もし断水してトイレが使用できなくても、我慢できず次から次に用を足し、その後の状況はご想像の通りだ。阪神・淡路大震災に露呈したこのトイレ問題は、トイレパニックと呼ばれ、東日本大震災や熊本地震でも同様のことが起こった。現場では深刻な問題となっている。
今回は、災害用トイレを取り扱う株式会社ハマネツの近藤さんにお話しを伺った。
自治体からの要望で開発された災害用トイレ
災害発生後、被災地に仮設トイレが設置されるまで、3日以内で約34%、1週間以内で約17%、残り約半数は2週間以上かかったそうだ(※1)。すぐにはやってこないと考えた方が良さそうである。ただでさえ不安定な環境下で、さらに状況を悪化させたくはない。防災・減災対策にトイレの備蓄は不可欠だ。
ハマネツは、イベント会場や工事現場などで使用する仮設トイレの取り扱いが主な事業だが、一方で防災事業にも熱心に取り組んでいる。災害用トイレもその一つで「ドント・コイ」シリーズは、これまでに累計2万台を出荷。新潟県中越地震や能登半島地震、東日本大震災など、実際の災害現場で利用されてきた。
従来のシリーズはバリアフリータイプであったが、新しく備蓄時の梱包サイズにこだわって開発されたのが「ドント・コイ コンパクト」だ。
「このコロナ禍でさまざまな公共機関、民間施設の備蓄倉庫が、マスクやアルコール消毒といった感染対策備品で埋まってしまったんですね。そこで梱包サイズを小さくしてほしいという声を多くいただきまして。元々災害用トイレの備蓄が十分に足りているところが少ないという現状もあったので、コンパクトさを追求しながらも、たくさんの使用回数に対応できるものを、と企画したのがドント・コイ コンパクトになります」と近藤さん。
まず梱包サイズを決めてから試作に取り掛かったという。もちろん最初は全く入らなかったそうだが、試行錯誤の末、2022年9月に完成した。
梱包サイズは業界最小。大人ひとりでも簡単設置
この非常用トイレ「ドント・コイ コンパクト」だが、環境に合わせて4つの処理方式が選択できる。一番使われている固液分離方式では、1台で約2,000回使用できるという。他にも貯留方式、下水道管に直につなぐマンホール方式、携帯トイレを利用する個別処理方式がある。
ワンタッチ方式のテントに、トイレ部分は工具なしで簡単に組み立て可能。一人でも10分ほどで簡単に設置できるのは緊急時に非常に助かる。
またテントは、耐風圧15m/s、遮光・UVカット率99.9%、防炎や耐水圧などのさまざまな性能を持つ。
「テントの遮光性を高め、夜間でも透けないように配慮するなど、JIS規格に準拠する高い性能を備えています」と近藤さん。
開発背景にあった梱包サイズの問題もクリアし、他の従来品と比較して約30%のコンパクト化に成功。業界最小クラスの梱包サイズを実現し、狭いスペースでも備蓄できるようになっている。
街の拠点にトイレ備蓄を。地域で備えて防災互助を強化
2022年9月より販売を開始し、売れ行きも好調だという。
「官公庁や自治体のお客様が多いですが、企業や街の拠点となる施設などにも広く展開して、従業員や地域住民のみなさんの安心につなげていきたいと考えています」
トイレの平均的な回数は1日約5回。災害直後には約50人当たりで1基、避難が長期化する場合は約20人当たりで1基がめやす(※2)。例えば、スタッフ10名の事業所であれば1基で1か月以上は持つ。男女を分けて2基あれば十分だろう(※3)。
「今やはり災害は増えていますから、まずは災害時のトイレ問題に備えてほしいですよね。もし災害に遭ってもトイレによる被害のない未来をめざしたいですね」
防災には自助・互助・公助が重要だが、オフィスや学校、町の自治会など地域の施設にもしっかりトイレ備蓄することで、防災互助の強化につながるといえるだろう。
(※1)名古屋大学エコトピア科学研究所 岡山朋子(協力:日本トイレ研究所)より参照
(※2)内閣府「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」より参照
(※3)難民支援協会「スフィア・プロジェクト」より参照。通常は男女比1:2で設置するのが望ましい
株式会社ハマネツ 1962年、株式会社叶屋総本社の子会社として、浜松熱源株式会社を設立。1965年、株式会社ハマネツに社名変更。浄化槽の製造、産業排水処理事業を経て、1990年に屋内トイレユニット事業へ。2004年、オゾン分野の研究開発に着手。現在は、屋外トイレユニット事業を中心に、防災、環境事業を展開。東京、静岡に本社を構え、大阪、福岡、宮城、名古屋、中国上海など各地に拠点を持つ。 |
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