日常に加えたい、ちょっといいもの。その“ちょっと”に気付けることで、有事の際にも心が豊かになれそう。
ライフスタイル、デザイン、ファッションの世界で、ブランドやプロジェクトを作る人の想いをまとめる、伝える。フリーランスPRのキム サンエさんが、日々の生活に加えたいちょっとうれしくなるもの・ことをご紹介します。
桜がまだ残る4月の初旬、バスに揺られて世田谷美術館を訪れました。お目当ては、3月から始まった「アイノとアルヴァ 二人のアアルト」展です。
アルヴァ・アアルトはいわずと知れた北欧建築・デザインの巨匠。フィンランドを拠点に、数々の名建築やプロダクトを生み出してきました。自然の素材を多用したシンプルでモダンなデザインが特徴で、アルテック社の「スツール60」や、イッタラ社のフラワーベースなどは、普段の生活で目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
左:スツール60(artek 公式HPより)
右:アルヴァ・アアルト コレクション ベース(littala 公式HPより)
「二人のアアルト展」では、アルヴァ・アアルトとその妻であるアイノ・アアルト、特に注目されることの少ないアイノに焦点を当て、公私にわたってパートナーであった二人の出会いから、手掛けた様々なプロジェクト、デザインの変化や思考を紹介しています。
「アイノとアルヴァ 二人のアアルト」(世田谷美術館 公式HPより)
(左)アイノ・アアルトとアルヴァ・アアルト ニューヨーク万国博覧会フィンランド館にて、1939 年 Alvar Aalto Foundation
(右)アルヴァ・アアルト、41 アームチェア パイミオ、1932 年デザイン Photo: Tiina Ekosaari Alvar Aalto Foundation
共にヘルシンキ工科大学の卒業生だった二人の関係は、1924年にまだ無名であったアルヴァの事務所をアイノが訪ねたことから始まります。その半年後に結婚した二人は、病のため54歳という若さでアイノが他界するまでの25年間、互いに認め合い、影響しあい、共に様々なプロジェクトを手掛けていきます。
アイノがパートナーとなったことで、アルヴァのデザインには「暮らしを大切にする」視点が生まれ、優しさと柔らかさが加わっていったとのこと。展覧会では、1930年に夫妻が企画展示した「最小限住宅展」が再現され、女性が社会に進出し始め生活様式が大きく変わっていった当時の人々のために設計された、様々なアイディアを実物大で見ることができます。デザインは社会や人のためにあるべきという、二人の信念を深く知ることができました。
後半部では、二人を中心に設立されたアルテックのプロダクトや活動が紹介されます。アアルトがデザインした多くのプロダクトに採用されている曲げ木の技術についても、動画や写真、実際の工具や機械と共に展示され、圧巻のボリュームです。
会場内にところどころ現れる、アルテックとイッタラによる特設コーナーでは、インテリアスタイリスト黒田美津子さんによって、両社の製品をスタイリングしたすてきな空間が。暮らしの様々なシーンにアアルトのデザインが溶け込み、より一層魅力を感じられました。
実は今回の展覧会では、世田谷美術館の通常の順路とは逆回りで展示を巡っていきます。その意図がわかったのは展示も終盤に差し掛かり、二人が手掛けたニューヨーク万国博覧会フィンランド館のうねる壁が設置された1階展示室。美術館中庭の大きなくぬぎの木と青々とした芝生、そして公園の緑が、展示室の大きなガラス窓から望め、自然を愛し、自然と共存する建築を目指したアアルトのデザインと、本物の自然の緑が共に楽しめるすばらしい空間が、展覧会のクライマックスを飾っていました。
アイノは、まだまだ社会で活躍する女性の少なかった時代、ディレクターとしてアルヴァのサポートをしながら、自身も建築家、デザイナーとして様々なプロジェクトを手掛けました。女性ならではの発想や、社会や人に対する深く優しい視点がアルヴァの作品にも色濃く反映され、二人が尊敬しあい高め合ってきたことがわかります。
圧倒的なボリュームと濃密な内容で展示される「二人のアアルト」展は、6月20日まで東京都世田谷区・砧公園内の世田谷美術館にて開催中。植物がどんどん元気になっていくこれからの季節、アアルトが愛した自然の美しさと共に、二人の軌跡をぜひご覧ください。
「アイノとアルヴァ 二人のアアルト
フィンランド −建築・デザインの神話」展
会期: 2021 年 3 月 20 日(土・祝)~6 月 20 日(日)(80 日間)
時間: 午前 10 時~午後 6 時(入場は午後 5 時 30 分まで)
休館: 毎週月曜 ただし 5 月 3 日(月・祝)は開館、5 月 6 日(木)休館
会場: 世田谷美術館 1 階展示室
東京都世田谷区砧公園1-2 tel. 03-3415-6011(代表)
観覧料: 一般 1200 円、65 歳以上 1000 円、大高生 800 円、中小生 500 円
*日時指定予約制(E ティックスにて販売中)
*新型コロナウイルス感染症拡大抑制のため、2021年4月25日(日)から2021年5月11日(火)まで、臨時休館中。詳細は公式HPよりご確認ください。
この記事を書いた人
- ライフスタイル、デザイン、ファッションの世界で、ブランドやプロジェクトを作る人の想いをまとめる、伝えるためのお手伝いをしています。連載では、日々の生活にあると、ちょっとうれしくなるものやことをご紹介していきます。
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