「IT先進国」で停電?エストニアの本当の姿と防災意識
【海外で暮らす子育て世代の防災】


北欧に近い北国、エストニアの首都タリンで、4歳のお子さんとエストニア人の旦那様と3人で暮らす、日本人女性カルーシオンさん。冬は一日中氷点下という、厳しい寒さが続く国で起こりやすい災害と、エストニア人の防災への意識について、お話をうかがっています。

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「IT先進国」でたびたび停電!?

カルーシオンさん:エストニアは、北欧のフィンランドから、高速船でわずか1時間半、飛行機で30分の場所に位置する北国です。冬が長く、薄暗い日が何か月も続きます。

そのため冬の暖房や明かりは、まさに“生命線”。ですが、エストニアの田舎のほうでは、わりと頻繁に停電が起きるんです。復旧するまでに、長いときだと2~3日かかる場合もあるみたいで。そのようなとき、もしも電気暖房しかなければ、命に関わりますよね。そのため、田舎では今でも暖炉や、薪を使ったキッチンの家がほとんどです。電気を頼らなくてもいいような生活スタイルになっていますね。ですが、停電のたびに煩わされるのが嫌だという人は、自宅に発電機を備えていることも多いですよ。

停電が多い地域でも、日本のような“避難所”があるという話は聞いたことがありません。薪で火をおこせば、温かい料理と暖は取ることができるからなのでしょう。

エストニアは都市部が小さくて、ほとんどが“田舎”の国なんです。森が多いので、昔から変わらず、薪を使った生活を続けることが、環境にも合っているのでしょうね。「自然と共存する」という意識が高いように感じます。

たとえば高速道路には、野生動物専用の橋がかかっているんです。森から出てきた動物が、車との接触を防ぐようにするこの方法は、動物を守ることができて、私たちも衝突事故を起こしにくくなる、お互いにとって良いものですよね。このような自然に対する敬意は、エストニア人のとても良い考え方だと思います。

また最近の新しい高速道路では、近くに動物が接近したことを察知すると、センサーで運転者に徐行するように知らせるようなシステムも導入され始めました。暗がりで視界が悪いときも、これはとても良いアイディアですね。

高速道路にかかる、野生動物専用の橋。「人は立ち入り禁止」の看板も立てられています。大型動物も通れるようなしっかりとした作りです

――エストニアは「IT先進国」や「電子国家」としても知られています。そのようなエストニアで停電が多いなんて、とても意外でした。またITとは正反対に思われる「自然」と、これほどまでに共存しているという面も、今まで知らなかったエストニアの素顔が見えたようで、とても興味深いです。

幼稚園では避難訓練もあるが……

――エストニアは災害が少ないというお話でしたが、子どもたちの避難訓練などはあるのでしょうか?また避難所も一般的ではないとのことですが、日本のように、防災リュックを用意するような習慣もありませんか?

カルーシオンさん:火事を想定した避難訓練なら、エストニアにもあります。先日、うちの子どもの通う幼稚園でも、避難訓練がおこなわれました。ですが日本のように、防災頭巾などはなく、毎日ハンカチを持たせるような決まりもないので、先生から配られたタオルを口に当てて、逃げる練習をしただけみたいですね。息子は「サイレンが鳴ったのに、本物の火も消防車も見られなかった。」なんて、がっかりしちゃって。火事の恐怖が本当に伝わっているのかは疑問ですね(笑)。やはり日本と比べて、防災への意識はかなりゆるいのかなと感じました。防災リュックや防災グッズなども、エストニアでは聞いたことがありませんね。

このようにエストニアは災害が少ない国ですが、日本や他の国ではどのような災害があるのかを、子どもに話して聞かせて、いざというときの危機意識を持ってもらうようにしています。

――カルーシオンさんにお話をうかがって、エストニアは、北国ならではの危険や不便さはあるものの、それらは昔から変わらないものとして、受け入れながら共存しているという印象を受けました。地震のように突然襲ってくる災害ではないので、特別な備えはせず、あくまでも“日常の暮らし”の一部なのでしょう。

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この記事を書いた人

あんじミサ
あんじミサ
ライター・イラストレーター。365日パンとスイーツを食べない日はない小麦粉系女子。コンビニとコストコ新商品のチェックが趣味。グルメ、旅行、育児を中心に執筆中。