神谷家の緑のオニギリ
【料理人・守永江里の名もなき料理】


料理名がつけられておらず、ごく普通に家庭の食卓に並ぶ『名もなき料理』を研究しているのが、山口県出身の料理人・守永江里さん。今回は、オカンの命日にお供えを何持って行こうかなーって。考えてたけど、このおにぎりになりましたwというインスタグラムの投稿が、私の心にとまった「神谷家の緑のオニギリ」をご紹介。

非日常にはいつもの食材が手元にない。そんな時に、ありもののなかでどう料理するか。思考を柔らかくする料理記事です。

[名もなき料理とは]

「オカンの命日にお供えを何持って行こうかなーって。考えてたけど、このオニギリになりましたw」という文章とともにインスタグラムの投稿で拝見した神谷さんの “ 緑のオニギリ ”。

それは、私が見たことのない鮮やかな緑色をしたおにぎりで、名前も見た目の通り“ 緑のオニギリ ”。味も美味しそうだけど、何より神谷さんにとってのこのおにぎりへの思いが気になったので、教えていただきました。

「このオニギリは他に食べてる人は見た事ありません。なぜ母がこのオニギリを作り始めたのは分かりませんが、子供心ながら最初は嫌でしたね。珍しがられるのでまたワサビオニギリだとか言われてましたけど、母に断る事は無かったですね。それくらいこのオニギリが好きだったのと母が作ってくれる事が嬉しかったからだと思います。」

お母さんが握ってくれるおにぎり。大人になればなるほど、その懐しさと美味しさは体に沁みます。神谷さんは子供の頃から、その喜びを感じておられたから、御命日の日に当時の気持ちと供にこのおにぎりを思い出されたのでしょう。

そこで私は、母の味ってどうやって作られていくんだろうと考えました。忙しい日々の中では、簡単なものしか作ることはできません。簡単だからレシピを目で追わずに、感覚で作る事ができるものばかり。その感覚で独自の味を作り出し、食べ手は、その味を度々食べる事で心に残るのではないかと。

神谷家の緑のオニギリでいうならばお母様は、好きな塩梅、握り方、具の量、それらを繰り返し作ることで、神谷さんにとって一番いい味を作ってこられたのだと思います。

名もなき料理を取材していると、皆さん『母のように美味しくは作れない』と言われます。繰り返し繰り返し、食べ手のことを思って作ることで、母の味には数値化できないバランスがあるのでしょう。

簡単だから度々作る。ただ作るだけではなく、特定の食べ手のことを考えて何度も作る。食べ手の好む、絶妙な味が作り出される。それが母の味なのかなぁと思います。

相手を思って作ることで判断することはたくさんあります。まだ小さいから、塩分は控えめに。とか、しっかり運動した後だから、塩分効かせようとか。お母様は無意識的に神谷さんのことをたくさん考えて作ってこられたと思います。だからこそ、このおにぎりがお母様と神谷さんをつなぐものであるのに間違いないことでしょう。

御命日の日、神谷さんがお墓に緑のおにぎりを持って行かれた時、きっとお母様もおにぎりをつくった日々を懐かしみ、微笑んでおられたのではないでしょうか。

お母様が作られていたのは三角ではなくて丸。海苔は後から巻いて、パリパリとした食感を楽しみます。オニギリはだいたい3個入っていて、3個中1つだけ、この緑のおにぎりだったそう。

紫蘇の実のプチプチとした食感がクセになります。美味しいですよ。

【材料】
・温かいご飯
・市販の紫蘇の実のお漬物

【作り方】
温かいご飯に、お漬物を混ぜ込んで握ったら完成です。

母の味が食べたくなりました。

料理人を志してから、美味しい肉じゃがは作れるようになったけれど、母と同じ味は作ることができません。やはり、母の肉じゃがが食べたいです。そして、そう思ってもらえる母になりたいです。

簡単なものでも、相手を思って作ることを大切にしていきたいと思いました。

次回は、『驚きの簡単さでとっても美味しい!家庭で愛されてきた名もなき料理レシピたち』をご紹介します。

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この記事を書いた人

もりえり。
もりえり。料理人
鎌倉市在住の料理人です。『もりえり。』と呼ばれています。
数店舗の日本料理店で調理を学びましたが幼少期より母親に教えてもらった愛のある料理が学びの基盤です。

苦手なことは、言葉で想いを伝えること。
得意なことは、料理で想いを伝えること。

趣味は料理以外にフットサル、釣り、スケボー、寝ることです。