村上家のしかくい汁
家庭で愛されてきた名もなき料理レシピたち
【料理人・守永江里の名もなき料理】


料理名がつけられておらず、ごく普通に家庭の食卓に並ぶ『名もなき料理』を研究しているのが、山口県出身の料理人・守永江里さん。今回は、美味しい・体にいい・楽しい!の三拍子が揃って食育に取り入れたくなる「村上家のしかくい汁」をご紹介。

非日常にはいつもの食材が手元にない。そんな時に、ありもののなかでどう料理するか。思考を柔らかくする料理記事です。

[名もなき料理とは]

村上さんが子供の頃からずっと食べているという、“しかくい汁”について教えていただきました。ご実家でお母さんが作られるそうで、具材はたくさん。根菜に魚、山菜まで入っているそうです。村上さんは、3人兄弟。村上さんたちが子供の頃、男の子たちがこのような健康的なお汁を食べるのかな?と気になったので聞いてみました。

「小学生の頃はそんなに好きではなかったけど、食べろと言われて食べていた。でも、あの頃山菜をよく食べていたからか、大人になってからはなんでも食べられるし山菜はむしろ大好きだね。このしかくい汁で食べ慣れたのかも」

このお汁に入っている根菜、高野豆腐、山菜などは外食で目にすることの少ない食材ばかり。作らないとなかなか食べ慣れることは難しいかもしれません。おんなじ大きさに切りそろえられた具材を一つずつすくって、これなんだ?ってクイズ出しながら食べてみるのも楽しそう。子供の頃から是非食べて欲しい一品です。

私も作って食べてみましたが、野菜の優しい出汁がしっかりと感じられるお味噌汁でした。老若男女、たくさんの人に親しまれる味だと思います。

この “村上家のしかくい汁” は、お母様の故郷・青森の郷土料理 “けの汁” だそうです。一般的にはお味噌で味付けをするそうですが、村上家では醤油味で仕立てる時も。

郷土料理や家庭料理を勉強していると、『砂糖(or みりん)・醤油・酒』だけで味付けをする料理が全国各地にあります。山口県ではけんちょう。神奈川県ではけんちん汁。山形県では芋煮。中島家のごちゃだきもそうでした。

全部味付けが同じなのに、料理自体は全然違う味になります。それは具材そのものがもつ味がしっかりと出ているお料理だから。味付けは同じなので、素材の差だけです。素材の旨味を感じるお料理を食べると、滋味深い美味しさに包まれ、幸せな気持ちになります。

人間が人工的にできる技を超え、素材の味を生かすことができた時、自分の想像を超える味が出来上がることがあります。そうやって自然との対話をしながら作る料理はとっても楽しいです。


–  山口県萩市の郷土料理・けんちょう –

すでにあるレシピを暗記して料理をしたり、味付けの工夫や、調理法を学ぶことに集中するよりも、素材の味を感じて素材の味を生かす技を身につける方が、美味しい料理を作れるようになると思っています。この“村上家のしかくい汁”を作って食べてみていただくと、きっと皆さんもおんなじ気持ちになると思います。そんな味がします。

ここでは味噌味をご紹介していますが、村上家のようにお醤油で味付けをしても美味しそうです。メカジキを入れるのも村上家特有。山のもの、野のもの、海のもの、それぞれの食材がおんなじ形に揃って、光を受けてきらめくお椀の中はとても綺麗です。

【材料】
・大根
・人参
・ごぼう
・乾燥しいたけ
・高野豆腐 or 凍り豆腐
・油揚げ
・こんにゃく
・メカジキ
・山菜の水煮 (ぜんまい、ふき、ワラビなど)
・出汁
・味噌

【作り方】
(1) 干し椎茸、高野豆腐は水で戻す。
(2) 全ての材料を5mm角に切る。ごぼうは水にさらしておく。
(3) 鍋に出汁をいれ、全ての材料を入れて火にかける。沸騰したらアクを取りながら、具材が煮えるまで加熱する。
(4) 火が通ったら、味噌を溶き入れる。
(5) ひと煮立ちしたら完成。

油揚げってこんな味がしたんだ、ごぼうってこんなに旨味を出すんだ……知っていたはずの味なのに”村上家のしかくい汁”を食べるとハッとします。いつもこれら一つ一つの食材の良さを活かせていたかなと振り返るきっかけになりました。

次回は『さわのピーマンフライ』をご紹介します

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この記事を書いた人

もりえり。
もりえり。料理人
鎌倉市在住の料理人です。『もりえり。』と呼ばれています。
数店舗の日本料理店で調理を学びましたが幼少期より母親に教えてもらった愛のある料理が学びの基盤です。

苦手なことは、言葉で想いを伝えること。
得意なことは、料理で想いを伝えること。

趣味は料理以外にフットサル、釣り、スケボー、寝ることです。