「非日常も日常も、寄り添い続けるのがアーティストの仕事」
イラストレーター・渡邊春菜さん


愛知県を拠点に活動する、イラストレーターの渡邊春菜さん。東日本大震災のボランティア活動をしたり、非常持ち出し袋を描いた、防災用のポスターなども制作しています。そんな渡邊さんに、これまでの活動のこと、震災後の胸の内など、お聞きしました。

子どもの頃は、両親が共働きで、よく絵を描いて過ごしたという渡邊さん。表現することが好きで、音楽にも興味を持ち、中学・高校と、吹奏楽部に入部。トランペットを吹いていた。高校生のときに進路先を音楽と悩むが、美術の世界に飛び込むことを決意。名古屋芸術大学の門をくぐった。

大学ではデザイン科メディアコースに所属。やりたいことを思い思いに選べる学風で、渡邊さんはプログラミングについて学んだという。またゼミでは、インタラクティブアートについて研究。ただ鑑賞するだけではなく、人が参加することで完成する対話型のアート作品を好んでつくった。

2008年に大学を卒業し、営業やデザインの経歴を経て、グラフィック技術を会得。2010年には、イラストレーター兼グラフィックデザイナーとして独立する。作品としてのイラストを描く一方で、グラフィックデザイナーとして、企業のホームページや季刊誌の挿絵、スポーツクラブのカレンダーやコーヒー豆のパッケージデザインなど、クライアントの要望に応じたさまざまなイラストやデザインを手掛けている。

そんな渡邊さんだが、2011年の東日本大震災のことは忘れられないという。翌日の3月12日に結婚式を控えていたからだ。
「挙式すること自体迷いました。関東方面からは来られない参列者もいらっしゃいましたから。挙式日は私の誕生日でもありましたし、後に離婚もしましたし、いろんな感情が織り交ざって、今でも強く印象に残っています」

震災後は、自身の無力感に苛まれた。
「医療従事者のように傷ついた人を治療することも、建設業のようにも壊れた家を建て直すこともできず、アートを生業とする私はとても無力で。できることはボランティアくらいしかありませんでした」

渡邊さんは、2011年から被災地のこどもたちへのクリスマスプレゼントを配るプロジェクトに参加することにした。
毎年11月頃、全国からプレゼント集めて現地へ。賛同してくれた被災地の方々の協力の元、クリスマスにはこどもたちへプレゼントを配ることができた。いつしか、このプロジェクトは渡邊さんが主体となって行われ、2016年まで続いた。

「震災復興というのは、健康上の問題や衣食住、就労などが成り立つことが第一ですよね。心と向き合うのって、二の次なんですよ。でも、私たちアーティストというのは、復興が進み、日常に移った後こそ、寄り添って、心を支える存在なんだと気づきました」

社会的インフラが整うまでの復興期間を非日常とするなら、復興後の日常まで、アートや音楽などのカルチャーは、変わらず側で支えてくれる。とりわけ精神的に負荷のかかる状況下において、私たちを癒し、鼓舞してくれる大切な存在だ。

2021年には、イラストレーターとして何かできることはないかと、非常用持ち出し袋の中身を描いたポスターを制作する。部屋に飾ってもインテリアとして溶け込む、素敵なポスターだ。

「災害っていつ起こるかわからないという意味合いに置いて、日常的なことだと思うんですね。それに、防災を非日常のものとして位置付けると、悪目立ちしたり、ネガティブな印象がありました。そこで、非常持ち出し袋の中身を、まるで冒険にでかけるようなポジティブなイメージで描いたポスターをつくりました。イラストレーターという立場から、防災を具現化し、支援したいと思ったんです」

ポスター作りを通して「クリエイターとして、震災に向き合う」その第一歩を踏み出した気がする、と渡邊さん。今後も、クリエイターとして人の役に立ちたいと話す。
「いろんな方にお仕事いただいて、ここまでやってこられました。これからも、いただいたお仕事を大切にしつつ、非常持ち出し袋のポスターのように、自分でつくり出す仕事も増やしたいと思っています。また、クリエイターや生産者、消費者の方々が複合的に関わる、ビジネスモデルもつくりたいですね。でも目下の目標は、無事に出産することかな」


昨年再婚し、もうすぐママになる渡邊さん。元気な赤ちゃんを産み育てながら、これから先もクリエイターとして素敵な作品を生み続けてほしい。

渡邊 春菜(わたなべ はるな)
1986年、岐阜生まれ。2008年、名古屋芸術大学デザイン科メディアコース卒業。卒業後は、教育関連の企業、アパレル会社で働く。2009年SoftBank・クリエイターズバンク主催fanfun. Design Contestグランプリ受賞。同年、個展「女の子は強いのだ。」を開催。2010年、イラストレーター、グラフィックデザイナーとして独立。2015年、名古屋松坂屋本店バレンタインTVCMイラスト担当。毎年、大阪にて個展を開催している。趣味は、YOUTUBEで世界のライブカメラを見ること。

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この記事を書いた人

しまかもめ
しまかもめフリーライター
(株)大阪宣伝研究所にコピーライターとして勤務。その後、デザイナー、編集者、フリーペーパー営業、ネットショップ企画運営を経て、独立。神戸市在住の3児の母。防災に携わる人々の取材をしています。