守永家の魚肉ソーセージの天ぷら
【料理人・守永江里の名もなき料理】


料理名がつけられておらず、ごく普通に家庭の食卓に並ぶ『名もなき料理』を研究しているのが、山口県出身の料理人・守永江里さん。今回は「守永家の魚肉ソーセージの天ぷら」をご紹介。

非日常にはいつもの食材が手元にない。そんな時に、ありもののなかでどう料理するか。思考を柔らかくする料理記事です。

[名もなき料理とは]

 


前回の記事、矢野家のかぼちゃの天ぷらについて書いていると、我が家の天ぷらについてもいろいろ思い出しました。

天ぷらと一言で言っても、お店で食べるものとは別物でした。家で食べる天ぷらは、衣がフワっとしていてきつね色に揚がっていて。それに甘めの天つゆをたっぷり浸して食べていました。たくさんの量を作るので一晩では食べきれず、翌日も残っていました。翌々日もあったかもしれません。(笑)

私が子供の頃は食卓に度々出て、毎週天ぷらが続く・・・なんて時もあったような。そんな記憶を母に共有してみました。我が家の定番の具は、魚肉ソーセージ、かまぼこ、ごぼうのかき揚げ、青じそ、えび、さつまいも、舞茸、白肉(ミノ)。今は両親2人暮らしの実家ですが、今でもこの多くの種類を一度に用意するそうです。

「具材が多くて、揚げるだけでくたびれるから食べる時にはもうどうでもよくなってるんよ。笑」と母親は言います。具材はどうやって決めていたのか聞くと「お父さんが好きなもの」という一言で返ってきました。

今日の晩御飯は天ぷら!と決定するのはおばあちゃんのリクエストだったそうです。油っぽいものが苦手なおばあちゃんですが、天ぷらは好き。天ぷらが食べたいと思うときが定期的にくるようです。今は入院しているけれど、実家を離れている私と同様、おばあちゃんもきっとお母さんの天ぷらを食べたいだろうなぁと思います。そしてきつね色で香ばしい衣はおばあちゃんの作り方。

「魚肉ソーセージの天ぷらも、かまぼこの天ぷらも、嫁に来るまで見たことなかったよ。衣にお砂糖を入れる作り方も初めて知ったよ。」とお母さんは言います。作るのはお母さんだったけど、作り方の伝授はおばあちゃんでした。

子供の頃はあんなに食べていたのに、そういえば実家を離れて大人になってから一度も食べていない!という料理は、思い出してみればたくさんあります。料理の仕事に関わってきたので、いろんなお店を食べ歩くようにしてきたし、自分でもあらゆる料理にチャレンジしてきたつもりだけど、実家で食べていた家庭料理はやはり母しか作らないので他で出会うことはありません。

どんなに素朴なものでも、毎日手作りしてくれたから記憶に残っています。お店で食べるサクサクの天ぷらも良いですが、ただただ好きなものを好きなだけ揚げる、我が家の香ばしい衣の天ぷらも美味しいので、ぜひ作ってみてください。

衣にお砂糖を入れるため、焦げやすいです。きつね色に揚がったら、鰹節の香りが立った天つゆをたっぷりつけていただきます。天つゆは、少し甘めの味付けです。みりんと醤油の割合を変えてお好みで調整してください。
【 材料 】

・魚肉ソーセージ 1本
・天ぷら粉 25g
・塩 少々
・砂糖 小さじ1/2
・炭酸水 40ml


(衣を多めに作り、我が家の定番かまぼことさつま芋も一緒に揚げました)

【 作り方 】

(1) 具材を食べやすい大きさに切る。
(2) 粉、塩、砂糖、炭酸水を粉っぽさがなくなるまでよく混ぜる。
(3) ①を②につけて、高温の油でカリッとするまで揚げる。

− 天つゆの作り方 −
・水 250ml
・鰹節 5g
・みりん 50ml
・濃口醤油 30ml


(みりんと醤油は計量して合わせてあります)

⑴ 鍋で水を沸騰させて、鰹節を入れる。
⑵ 弱火にし2分煮出して、漉す。
⑶ ②を鍋に戻入れ、みりんと醤油を入れて一煮立ちさせる。

母の料理を思い出すと、なんともいえない温かい気持ちになります。その度に私もどんなに簡単でも、家族を思って手料理を作り続けようと改めて思います。毎日毎日、特別に評価されなくても、とっても意味のある仕事だと今では思うのです。

手を動かして、家族に料理を作り続けることは、安心感を与える素晴らしい仕事です。お金をもらって料理を作る料理人ではなくても、名もなき料理を作っている世界中の名もなき料理人さんたちが目には見えない形で今日も人を支えています。

次回は『伊織さんのしらすと茗荷の和えたん』をご紹介します

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この記事を書いた人

もりえり。
もりえり。料理人
鎌倉市在住の料理人です。『もりえり。』と呼ばれています。
数店舗の日本料理店で調理を学びましたが幼少期より母親に教えてもらった愛のある料理が学びの基盤です。

苦手なことは、言葉で想いを伝えること。
得意なことは、料理で想いを伝えること。

趣味は料理以外にフットサル、釣り、スケボー、寝ることです。