備えを日常に。安心を着よう。
防災コート「prepover(プレップオーバー)」


取材先を探すために、よくプレスリリース配信サイトを利用するのだが、そこで珍しい防災アイテムの発売記事に巡りあった。株式会社アベニールのアパレルブランド「lond(ロンド)」より発売された防災コート「prepover」だ。詳しい内容が聞きたくて、代表の菅沼さんにお話しを伺った。

ファッション性だけでなく、社会環境を考慮するように

若い頃からファッションに興味を持ち、アパレル業界で30年余り働いてきたという菅沼さん。テキスタイルメーカーで勤めた後、起業し、アパレル向けのOEM、ODM事業を手掛けてきた。
「これまで、ファッション性に富んだ、かっこいいとか、かわいいことだけに捉われてやってきたように思います。ですが、いつしか廃棄ロスや頻発する災害など社会環境の問題が気になるようになりました」と菅沼さん。

アパレルにおける環境問題でいえば、ファストファッションの台頭や過剰なトレンドサイクルによる余剰在庫、大量廃棄の問題は、残念ながら年々増加傾向にある。
また社会環境の変化によって引き起こされる災害の激甚化も周知の事実だろう。
菅沼さんも3.11東日本大震災に遭遇した。東京青山での展示会の最中、突然強い揺れを感じたそうだ。
「いろんなものが落ちてきたりで大変でしたね。お客さんを逃がすことだけで精一杯でした」

もともと菅沼さんは家族のために、非常持ち出し袋など人数分用意し、災害への備えに努めてきたそうだ。しかし地震に遭い、各地の災害を目にしながら、緊急時に非常袋を持って逃げる余裕が果たしてあるのか、と疑問を持ったという。
「自分が体験したときもそうですが、東北で被災した方の話でも、みんな逃げるだけで精一杯だったと聞きます。もし洋服そのものに備えることができたら、いざという時の助けになりそうだ、と漠然とした構想はありました」
そんな中、2021年10月に千葉県北西部を震源地とする地震が、12月には山梨県東部・富士五湖の地震、和歌山県北部地震、鹿児島県のトカラ列島群発地震が立て続けにあった。
「頻発する地震を目にし、本格的に防災に特化したアパレルブランドの設立に取り組もうと決心しました」

表面はすべて難燃素材。バランスよく配置したポケット多数。

2021年に防災アパレルブランド「lond」を立ち上げ、防災コートの製作に取り掛かった。
「玄関の鴨居にかけられるくらいヒョイと簡単に持ち出せるものはないのかと考えたとき、いきついたのがこの防災コートでした」

菅沼さんご自身の体験を踏まえ、家族みんなで安心できるようにと、大人用子ども用小型犬用の3種類で展開。ワンちゃん用までそろっているとは、愛犬家も嬉しい。

特にこだわったのは、生地の素材だという。アクリル系合成繊維を織り込んだ生地で、繰り返し洗濯しても燃えにくい性質をキープできる。万が一火に触れても、炭化するので、燃え広がりにくいそうだ。もちろん撥水加工も施し、雨にも強い。
またリフレクター(反射素材)もすべて難燃素材が使用されている。

また、0次の備えに必要なたくさんのポケットが付いており、マスクや救急グッズ、ホイッスルや携帯ライト、お金、鍵、スマホ、充電器など、さまざまな防災アイテムを入れることができる。大人用は14個、子ども用は7個のポケットがあり、全面に12個のポケットを、後ろには500mlペットボトル用のポケットを2個配置することで、前後のバランスが取れるように設計してある。フード部分には着替えやタオルを入れることで頭巾の役割を果たす。
小型犬用は7個のポケットが付いているので、ドッグフードやプロフィールシートなどを入れてみよう。



コートは、上から被るように着ることができるので、着脱も簡単だ。必要な箇所には、すべてマジックテープを使用しており、素早く止めることができる。大人用は小柄な女性ならコートの中で着替えることができる設計。これは避難所での着替えに困った女性が多くいたという声から決めたそうだ。


スタイリッシュなデザインとカーキの落ち着いた色合いも良く、年齢性別問わずに着られる。モカ・ブラックのカラー展開もあり、新作の製作も進めているそうだ。
「ファッション性を捨てることはできません。やっぱり着て楽しいものがいいですよね」
と菅沼さん。
災害時だけでなく、アウトドアや釣り、防風・防水コートとしても日常的に着たいと思わせるコートだ。

Made in Japanクオリティで、安心の輪を広げたい

これまで海外の工場でもいろんな商品をつくっていたという菅沼さんだが、この防災コートに関してはすべて栃木県の工場で、職人の手によって製造することにしているそうだ。
「国内の工場は近くにありますから、もしトラブルがあってもすぐ駆け付けられる安心感があります。ご購入いただくお客さんもMade in Japanの安心感を得られると思います。私たち、取引先、顧客の3者すべての安心感を安定してお届けしたくて、Made in Japanにこだわりました」

コロナ渦での海外取引、物流は混乱を極め、内需はより厳しい状況に立たされている。
国内で完結できる生産体制をつくることは急務だろう。

「今後は輸出も考えています。日本だけでなく、世界的にみても災害は増えていますよね。この防災コートを通して、小さな島国が誇るMade in Japanのクオリティと防災意識の高さを海外にも展開できたらいいですね」

全世界的に気候変動や環境問題に関心が高まっている今、この防災コートをはじめとする多彩で高品質な防災用品と、日本人の持つ高い防災意識を、海外にも広める必要がありそうだ。

株式会社アベニール
東京・南青山にてアパレル企業として設立。主な事業は、繊維製品の企画・製造卸業・オンデマンド刺繍。取り扱い商品は、布帛(全般)・カットソー・鞄・小物など。2021年に防災アパレルブランド「lond」を立ち上げる。

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この記事を書いた人

しまかもめ
しまかもめフリーライター
(株)大阪宣伝研究所にコピーライターとして勤務。その後、デザイナー、編集者、フリーペーパー営業、ネットショップ企画運営を経て、独立(コトバアトリエ)。神戸市在住の3児の母。