「普段できないことは非常時も……」災害時のだっことおんぶを追求する防災士・渡邉 恵里香さん


もし、スマホから不穏な警報音が鳴って災害の緊急速報メールが届いたら、どう動くべきか考えたことはあるだろうか。地震なら開始10秒で生死が決まってくるという。とっさに正しい判断ができるだろうか。正直なところ私はかなり心配している。自分ひとりなら何とかなるかもしれない。しかしながら、我が家には3人のこどもがいるのだ。災害時、子どもを守るためにはどうすればいいのだろうか。今回は、ベビーダンスインストラクター・防災士として活躍されている渡邉恵里香さんにお話しを聞くことができた。


渡邉さんが東日本大震災で被災したのは、第一子を出産後すぐ茨城県へ転居してからだった。引っ越ししてまだ8か月、子どもが生後11か月というときだ。

「一応、非常用持ち出しバッグを用意していたし、避難所に行けば何とかなると思っていたんです」

子どもを抱えて避難所へ行ったのだが、避難所も被害に遭いひどい有り様だった。配給される数少ないパンは子どもに卵アレルギーがあって食べさせてあげられないし、ミルクを飲ませるためのお湯も沸かせられなかった。子どもはお腹が空いた空いたと泣いていて、途方に暮れてしまった。「この子をこれからどうやって守っていけばいいんだろう」と子どもと一緒に泣くしかなかったという。

毎年災害は起こっている。この先、子どもの命を守るために何かしなければ、と震災の経験を通して防災に興味を持つようになった。


2015年より学生時代に培った社交ダンスの経験を生かして、ベビーダンスの講師として活動していた。その延長線上にあった赤ちゃんとのコミュニケーションの取り方を深めるために、ベビーウエアリングコンシェルジュという資格を取得した。だっことおんぶを専門的に学ぶ資格だ。その中で、災害から赤ちゃんを守る方法も学んだという。そこで防災士の存在を知り、取得することにした。

現在は、鹿児島県へ移住し、子育て支援センター、子育てサークル、保育園・幼稚園などで出張教室やリモートレッスンを通して、防災の重要性について伝えている。

昨年は、東京大学(オンライン)で開催された「だっことおんぶの大勉強会2020」にて「災害時のだっことおんぶの必要性」について研究発表する機会にも恵まれた。

まず、災害が起こった時は、乳児はおんぶして避難するのが最善策だ。視界は広く、両手が空くからだ。もし普段だっこで過ごしている場合は、だっこで逃げてもいい。おんぶに慣れていない赤ちゃんは、おんぶを嫌がるかもしれないからだ。日常的におんぶやだっこをされてない赤ちゃんは、泣いたり暴れたりと逃げる際に手間取る可能性がある。

「普段の生活から愛情を持っておんぶやだっこをしてほしいと思います。いつものおんぶだっこが緊急時にも役立ちますから」と渡邉さん。

そして親側にも、いつものおんぶをすることで、心の落ち着きを取り戻せるという、いい影響がある。赤ちゃんのぬくもりを感じることで、「よし、がんばろう」という気持ちに切り替えることができる

また、災害後の片づけなどで、物理的に赤ちゃんを床に置けない状況も出てくるだろう。そんなときも、おんぶとだっこが欠かせないはずだ。

渡邉さんは、震災直後「凍りつき症候群」に陥っていたお母さんに遭遇したという。

こどもを連れて逃げようと当時住んでいたアパートの3階から駆け下りていると、2階の玄関先で1歳の双子の赤ちゃんを両手に抱え、3歳の男の子が足にしがみついてるお母さんが裸足で佇んでいたそうだ。そのお母さんに「大丈夫ですか?」とか「一緒に逃げましょう」と話しかけたが、全く反応がない状態だったという。これはマズイな、と偶然通りかかった近所の方に双子の赤ちゃんを抱っこしてもらえるよう声をかけて一緒に逃げた。

予期せぬことが起こった時に、その訓練や経験がなく、心身共に凍り付いたように動けなくなるのが、この「凍りつき症候群」という状態だ。また、紛れもない脅威にもかかわらず、差し迫った脅威ではないと思い込む「正常性バイアス」や、他の人は逃げていないから、自分も大丈夫だろうという「同調性バイアス」などに陥ってしまい、災害に巻き込まれた人も多いと聞く。

「普段できないことは、非常時にもできないんです。家の中での安全地帯はどこだろう、とか学校や職場、通勤通学中、買い物のときにも災害が起こったらどこに逃げようか、とか日頃からシミュレーションしておくことが大切です。物の備えも必要ですが、心の備えこそ重要なんです」

渡邉さんは、ときどき子どもたちと自宅でキャンプをするという。部屋を真っ暗にして、電気やガス、水道を使わない生活を体験することで、緊急時にも怯まない心を養うのが目的だ。実際に昨年、台風10号が鹿児島を直撃した際に、12時間以上停電になったというが、子どもたちは暗闇の中、楽しく過ごしていたそうだ。

心の準備を整えることで、子どもたちを守ることができる。日常に「災害シミュレーション」を取り入れて、非常時をサバイブしたいと思う。

渡邉 恵里香
鹿児島県在住。防災士、一般社団法人日本ベビーダンス協会認定ベビーダンスインストラクター、NPO法人だっことおんぶの研究所認定ベビーウエアリングコンシェルジュとして活動。子育て支援センター、子育てサークル、保育園などで出張教室やリモートレッスンを多数開催。情報誌「リビングかごしま」主催の鹿児島キラリ女性大賞 準大賞受賞。
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この記事を書いた人

しまかもめ
しまかもめフリーライター
2002年より(株)大阪宣伝研究所のコピーライターとして勤務。その後、デザイナー、編集者、ネットショップの企画運営を経て、育児のため休職。2020年よりフリーライターとして復帰。愛知生まれ、高松、宮崎、神戸育ち。仕事の関係で大阪や東京に住んでいたが、夫の転勤で豊岡(城崎温泉が有名)、家島(瀬戸内海の島)へ移住。現在、神戸市在住のボヘミアンな人生。3児の母。イラストは8才の娘が担当。