自分らしくいられることの大事さ。
女性支援団体ウィメンズアイ考案のライフポーチとは


東日本大震災当時、東京で仕事をしていた栗林美知子さん。自分も何かやらなくては、と休日は東北に赴き、平日は仕事後に自宅のPCを使ってできるボランティア活動を続けてきました。2013年には、三陸沿岸部でともにボランティア活動をしていた仲間と女性支援のための団体「特定非営利活動法人 ウィメンズアイ(以下、WE)」を立ち上げることに。栗林さんはこれを機に仕事を辞め、宮城・南三陸町へ移住。震災から10年を迎えた今も南三陸で地域の女性たちと活動を続けています。

10年に渡って活動を続けてきた中で見えてきたこと、女性が日常でできる備えについて教えていただきました。

「WEがいちばん注力している活動は女性のエンパワメント、女性が活躍するためのサポートです。震災直後はさまざまな支援がありました。それによって注目を集めた女性もいて、いい部分ももちろんあったんですが、急激に目立つことで批判もあった。それで心が折れてしまう女性たちを見てきたんです。

また起業のサポートもありましたが、経営のノウハウやビジネスマインドを学ぶことが中心。それ以前に、自分が自分らしくいられるとか、自分を認めてあげる、自分で自分のケアができるといった、もっと根っこの部分の力を付ける必要があるんじゃないかと思ったんです」

セルフケアやコミュニケーション、つながりづくりといった身近なテーマについて講座を開くなど、地道な支援を続けてきたWE。やがて参加者から、職場で自分の意見を言えるようになった、自分の得意なことで人を喜ばせることができた、といった声が集まるようになったそうです。

「ひとつひとつは小さなことだったり、歩みもスローかもしれません。でもそうした出来事を繰り返していくうちに、その人自身が変わってくるのが目に見えるようになる。10年続けることで、落ち込んでいたり、迷って決められなかった女性が今では職場で輝いていたり、相談を受ける側になっていたり、だんだんと周りにも影響を与えるようになってくるんですよね」

 

メンバーで育てている麦畑。やがてWEの工房で作るパンの原料に。

 

行政や起業支援をしている人たちからは、一年といった短いスパンで成果を計られがち。そこに対する葛藤もあったそうですが、土地に根差して少しずつ積み上げた活動は、大きなインパクトにつながっていました。

「例えば私たちが事務局をしている「ひころマルシェ」は、最初は10店舗ほどの出店でお客さんも100人くらい。ところが2019年には60店舗、1700人ほどのお客さんが来場してくださいました。出店しているのは小商いをやっている女性が多くて、ひとつひとつは規模も小さい。でも、それが集まって、そして続けることで、だんだん大きな規模になっています」

参加している女性たちだけでなく、周囲の人々の認知も少しずつ変わってきているといいます。

「『あの人たちは何をやっているんだろう?』というところからこのまちでの活動はスタートしました。講座やイベントに参加した女性たちが少しずつそれぞれの場所で活躍してくれることで『南三陸にはWEさんという人たちがいて、女性のことを応援してくれている』、『女性が何か困ったら、相談しにいっていい場所だ』となんとなく知ってくれている人が地元で増えました」

栗林さん自身は、分かりやすい成果や周囲の人の認識以上に、最初は何かをしたいけれど何をしていいか分からなかった女性たちが自分のやりたいことを見つけ自立していく姿に何より充実感を感じるのだとか。

「女性たちがどこかの時点で変わったと感じる瞬間があって。活き活きして自ら動いていく。そして、私たちとのつながりの中で自分が得たことやできることを周囲の人や私たちに還元しようとしてくれたりするんです。そういうことが今たくさん起きていて、すごくうれしいです」

女性支援を続けてきた栗林さんに、女性が日頃から備えておくためにおすすめのツールを伺いました。

「私自身が震災時に都内で一人暮らしをしていて、防災に縁遠かった。同じように一人暮らしの女性が自分事として備えを日常に取り入れるために、「ライフポーチ」というものを考案し、主に女性や子どもたちに対象にワークショップを開催しています」

多くの女性が日頃から化粧ポーチを持ち歩いていることに着目。災害はどこで遭うか分からないため、化粧ポーチと同じように、普段からバッグに入れておく「ライフポーチ」を思いついたそうです。

「服に合わせてバッグを替えたときに、化粧ポーチを入れ忘れると『今日は最悪だ』という気分になりますよね(笑)。ライフポーチもそれぐらい、どこにいくにも持ち歩くのが常になってほしいなと思っています」

中身はよくある防災グッズだけでなく、メンタルのケアにも目が向けられているのが栗林さんらしい視点です。また中身は決められたものを詰めるのではなく、それぞれが自身に必要なものをチョイスするところからワークショップは始まります。

WSで使うさまざまなアイテムが描かれたカード。自分のライフポーチの中身を考えるヒントに。

 

「防災グッズだけだと多分ポーチを開けないので(笑)、普段から小腹が空いたら食べられるお菓子などを入れておくとより身近になっていいと思います。おすすめは日持ちする羊羹ですね。私も入れています。

それと、避難所に歩いては行けるけど、そこで一日過ごすことになったときに自分を守ってくれるものがほしい。例えば親子向けのワークショップだったら、別々の場所で災害に遭ったときのために、お互いを励ますお手紙を書いて持ち歩くことを提案したりしています」

栗林さんのライフポーチ。中身はライト、携帯バッテリー、ホイッスル、羊羹など。 顔が描かれているのは、公衆電話用の小銭の包み。内側には緊急連絡先等を書き入れている。ライフポーチは普段から持ち歩くため、万一落とした時に個人情報が見えないようにこのような形になった。「ポーチは、キルト生地だとほどよい厚みがクッションになって良いです。持ち歩きの目安として、文庫本の重さとサイズをおすすめしています」(栗林さん)

 

他に女性のための日頃からできる備えのアイデアを伺うと、少し考えたあとで「街歩き」という回答をくださいました。

「東京で一人暮らしをしていたときは、近隣の人とのつながりはほとんどゼロでした。学校に通う子どもがいると、地域とのつながりもできるけど、単身だとそれも難しいですし。いざ避難指示がでて近所の避難所に行くにしても一人って心細いと思うんです」

 街歩きをして顔なじみの人を一人でも作っておくこと。個人商店のカフェやパン屋さん、飲み屋さんなど、店主や常連さんと会話ができるところをひとつでも持っておくと、何かあったときに取り残される可能性が減っていく。遠くの家族や職場の人より、災害時に力を発揮するのは地域の人とのつながりなのです。

一人一人ができることは小さくても積み重ねること、周囲とつながること、そして地道につづけていくことで少しずつ確実に地域を動かしている女性たちとWEの皆さん。復興支援に加えて、街づくりや女性がいきいきと活躍する生き方の手本を見せてくださいました。

 

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この記事を書いた人

小野好美
小野好美
広告会社勤務後、フリーライター。生まれ育った東京から高知、さらに鹿児島へと移住。コラムやインタビュー記事を中心に執筆。インタビュアーとしても活動。