無関心だった地元。震災を経て「岩手・宮古のために」と奮闘した10年。
ゲストハウス7310 加藤洋一郎さん


岩手県の宮古駅から徒歩5分にある、洒落たファサードのゲストハウス7310(みなと)。このゲストハウスのオーナーとして、また家業のガス会社も経営する加藤洋一郎さん。生まれ故郷で奔走する加藤さんにお話しを伺った。


「今の若い人は、自分の地元をポジティブに捉える人が多いという印象があるんですが、当時の私は、閉塞感やコンプレックスを感じていました。それで、テレビの中の煌めく世界に憧れて、上京したんです」

多様な価値観が流れるインターネットが普及する前は、テレビや雑誌などマスメディアの与えた価値観というのは大きかった。90年代を地方で過ごした若者の多くは、メディアにみる華やかな都会に憧れたように思う。

加藤さんは、宮古市の高校から、東京の大学へ進学。さらに京都の大学院で国際政治学を学んだ。その後、留学しようと、資金を貯めるため、一時的に故郷に戻り、実家のガス会社で働くことにした。30歳までには海外へ、と考えていた矢先、東日本大震災に遭った。


宮古市の中心街から車を20分ほど走らせた田老地区が、加藤さんの故郷だ。美しい海岸線を有する三陸ジオパークの一部で、普段は穏やかな漁師町である。一方で、1896年の明治三陸地震、1933年の昭和三陸地震と、甚大な津波被害に遭った地域として知られている。そのため、1934年から約40年の歳月をかけて、高さ10メートル、全長約2.4キロに及ぶ、大規模な防潮堤を建設。世界最大級の堤防は、万里の長城とも呼ばれた。しかしその万里の長城をもってしても、2011年の東日本大震災による巨大津波を防ぐことはできなかった。

「地元に後輩がいたんです。彼は消防団に所属していて、地震の時、防潮堤の水門を閉鎖しに行きました。水門に鍵をかけた後、海の様子を見ようと堤防の上に立った。そのまま津波にのみこまれて亡くなりました。当時28歳。発見された時は、水門の鍵を手に握りしめたたままでした」

震災の惨禍を目の当たりにして、胸につき刺さるものがあった。
「彼は地元を守るという、役割を果たそうとした。自分の役目から最後まで逃げなかったというか…。東京に行きたいとか、海外に行きたいだとか言っていた自分って何なんだろう、と思いました。地元を恥じていた自分を恥じました」

自宅も会社も被災し、海外留学への道を一旦、保留に。地元で模索していくことになった。

2015年、ボランティアで被災地に入っていた早川さん(現・取締役)と出会い、地域の観光振興について考える「宮古観光創生研究会」を立ち上げた。これをきっかけにして、宮古ゲストハウス設立プロジェクトがはじまる。早川さんがNPO活動を通して知り合った佐山さんと村井さんを誘い、2018年にゲストハウス3710をオープン。1Fはラウンジ兼カフェ&バーになっており、旅行者や地元客の交流の場となっている。誰でも気軽に出入りできるのが、3710の魅力のひとつだ。また、インターンシップの受け入れを積極的に行い、地方創生の一翼を担っている。


加藤さんは、ゲストハウスの利用客や学生たち、外国人の観光客に対して、震災の語り部活動も行ってきた。
「震災前は4,000人以上いた田老も、今では半数近くまで減少しています。歴史のことなど、田老が忘れ去られるという心配が現実になってきている。自分が語り部として活動することで、田老を知る人を少しでも増やせたらと思ってやってきました」
震災直後は、涙する人も多かったが、徐々に被災地に何か貢献したいと話を聞きにくる人が増えてきたそうだ。

現在、ゲストハウスの運営はコロナ禍で厳しい状況だが、今後も継続させて運営し、近く若い人たちに引き継くことが決まっている。
「地域に(ゲストハウスという)種を蒔いたと思っています。育てるのはなかなか困難もありましたが、実を収穫するときには、誰か他の人に、という思いがあります」

震災から約10年。地域に役立ちたいと奮闘してきた加藤さん。ゲストハウスを若い人に引き継いだ後は、再び学問の世界に挑戦したいという。
「地域の人たちとのご縁があって、今までやってこられました。特に地元の経営者、コンサルタントの方々から会社経営について教わるのがおもしろくて。より深く学びたいと思うようになりました」

これから先、さらなる力を身につけて、地元をつなぐ架け橋となってほしい。

加藤 洋一郎(かとう よういちろう)
1980年、岩手県宮古市田老地区生まれ。2002年、青山学院大学法学部卒業。2006年、立命館大学国際関係学研究科博士前期課程修了。2006年、加藤昇一商店入社。2016年、通訳案内士登録。2017年、宮古ゲストハウスプロジェクトを開始。クラウドファンディングを活用し、眼鏡店をリノベーション。2018年、ゲストハウス3710をオープン。同時に、株式会社日々旅を設立し、代表取締役として就任。趣味は、経営について勉強すること。

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この記事を書いた人

しまかもめ
しまかもめフリーライター
(株)大阪宣伝研究所にコピーライターとして勤務。その後、デザイナー、編集者、フリーペーパー営業、ネットショップ企画運営を経て、独立。神戸市在住の3児の母。防災に携わる人々の取材をしています。